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対談 小寺信良×津田大介(2)――音楽ファンとレコード会社の“思い”は、なぜすれ違うのか特集:私的複製はどこへいく?(1/3 ページ)

» 2004年11月05日 16時50分 公開
[渡邊宏, 中川純一,ITmedia]

一生聴きたい音楽があるとき、音楽ファンはどうすればいいのか

津田:前回、小寺さんが提案された、本人が買ったものならば、別にどう使ってもいいじゃないか、(本当の意味での)私的複製は自由であるべきだ――という考えは、音楽の世界でも大きな意味を持ちますね。

 音楽を記録するメディア自体はどんどん変わって行くじゃないですか。でも、良い曲や良いアルバムは一生聴いていたい。じゃあ、20年後にCDが聴けるかというと、これが結構怪しい。現にLPレコードは(一部の人を除けば)聴きにくい環境になってますよね。

 じゃあ、一生聴きたいアルバムがある場合、どうすればいいのか? 

 「1万円払うから一生聴ける権利をくれ」という考え方だって、音楽ファンの中にはありえるでしょう。レコード会社がつぶれない限り、サーバ上に高品質なデータがあって、いつでもダウンロードできるようにする。入れ物は何でもいいんですよ。CDだろうがMDだろうが、あるいはBlu-ray Discのような新しいメディアだってかまわない。究極的には、そういうのを音楽フリークは求めているんじゃないですか。

――そうですね。僕らはCDやMDというメディアを買いたいわけではなくて、音楽そのものに対価を払うわけですから

津田:音楽ファンとしては、「音楽」を聴きたいし、「いつでも」聴きたいんです。だから、iPodはヒットしたと思うんです。逆に、CCCDなどに対する反発心の根本にはそうした感情があるんじゃないでしょうか。あれは「聴きたい」という欲求を“制限”しようとするものですから。

 現実的に言えば、一生聴く権利を担保しろなんて言うのは難しい話でしょう。そんな義務はレコード会社にはないわけですし。ただ、突き詰めていくと、消費者のニーズはそこにあると思いますね。聴きたいと思ったときに、自分でお金を払って、コンテンツを手にする、という。

 ブロードバンド環境が普及してきたわけですから、それをもっと有効利用できればいいと思うんですよ。音楽だけではなく、映像もそうです。昔の映像コンテンツは、それこそ宝の山ですから。

 CDだったら、オークションサイトや中古CD屋を探せば手に入る可能性もありますけど、TV放送はそうはいかない。衛星の有料放送で見るであるとか、DVDが発売されたりしない限り、なかなか手に入りません。そうした番組がオークションで高値を付けたりとか、P2Pで流通したりとかしている。そういう現実を見ると、やっぱりもったいないなぁと感じてしまうのです。

なぜ、国内盤CDの価格は“3000円均一”なのか

津田:一昔前ならば、“CDが物理メディアであることの制限”というのがあったんです。ニーズが少ないものをパッケージ化しても販売量は見込めないので、結果的に損益分岐点を下回り、ビジネスにならない。でも、今はインターネットがあるから、ネット配信ビジネスの可能性が出てきた。少なくとも物理メディアではビジネスにならなくても一定量のニーズがある、つまりファンの忠誠度が高いアーティストの商品ならばコストを下げた上できちんとリクープするビジネスができるはずなんです。

小寺:そうなれば、限りなくニッチなコンテンツも生きてくる。ニッチなものは高い、メジャーなものは安い、という構造があるべきだと思うんです。

津田:僕もそう思いますね。

小寺:売れ筋の国内盤音楽CDって、基本的に一律同じ価格じゃないですか。その価値観はどうなのかな、と思います。ある意味ではフェアなんだけど、これからは違うんじゃないでしょうか。

津田:例えば、佐野元春のファンなら5000円出したって買うでしょう。1枚3000円のCDが1万枚しか売れない有名アーティストがいたとして、1枚1万円にしてそれが5000枚売れたら、もしかしたら黒字になるかもしれない。そうした考え方が現実になれば、採算構造の考え方も変わってくるわけですよ。

 逆に、新人アーティストというのは聞かれてなんぼの世界ですから、ファーストアルバムを1500円で出して、次からは3000円にするという柔軟な価格戦略もアリでしょう。

――現実には、レコード会社はプロモーションビデオを入れたDVDをセットしたりして、それで価格を高くする戦略をとることが多くなっていますね。

津田:実際、(CDの)価格は高くなっていると思いますよ。

――この件は、著作権分科会でも話題になりましたが……。ただ、再販対象の商品にそうではない商品を組み合わせると(CDとDVD、雑誌と模型など)、再販制度の対象から外れてしまうんですよね。

津田:そうそう。でも、プラモ付きの雑誌なんて2誌しかない(笑)

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