津田:……。難しいですね。僕はアナログ盤の文化をギリギリ知っている世代ですし、CDが右肩上がりに普及してきたのを見ている世代でもあります。昔は中古で買い、今は新品で買うようになりましたが、モノに対するこだわりはすごくあります。
僕から見れば、今の10代や大学生などは、古い音楽ファンが持っている“パッケージ信仰”が薄れていると思うんです。「CD買わないけどライブには行く」とか「CDは買わないけど、レンタルで借りてiPodには曲を入れておく」とか。音楽を所有することへの概念が変わっているように感じます。物心ついたころからデジタルに親しんでいる世代って、僕らとは感覚が違うと思うんです。
小寺:所有欲って、ある程度、数がそろわないと自分の中でも生まれないものなんですよ。つまり、「ひと棚埋まった」であるとか、なんらかの区切りがないと。何か、自分的・量的な区切りがないと、物欲というか、量に対してのこだわりは生まれないんです。
デジタルの音楽物理的な質量は存在していないので、いくら集めても、コレクター魂というものは発生しにくいんじゃないでしょうか。
津田:HDDが○○Gバイト埋まっていて、入っているMP3すべてにタグ情報がきれいに入っている。そういう気持ちよさっていうのはあると思いますけれどね(笑)
小寺:僕はもっと即物的になっていくのかなとも思っているんです。例えば、今日CDを買ったとします。ところが、今はCDプレーヤーを持ち歩いていないので聴けない。でも、若い連中(笑)は、今すぐココで聴きたいんだと思う。そういう感じがしますね。
コンビニのキオスク端末にブランクのMDを入れると、曲をダウンロード購入できるというサービスがありますね。今は“買える品ぞろえ”に問題があると思いますが、例えば曲数をもっと豊富にして、CDショップの店頭にiPodを持ち込むと、店員さんがダウンロードして入れてくれるような即物的な販売方法があれば、そう悪い結果にはならないんじゃないかなと思うんですよ。
津田:それを今できる範囲で実現しているのが、着うたなんでしょうね。即物的に、ある程度の“聴きたい”という欲求を満たしてくれる。そのうち、HDDを搭載した携帯電話が登場して、ダウンロードサービスが普及すれば、状況も変わるでしょうね。
小寺:着うたというのは、要するに携帯でないとメディアにアクセスできないので、その不自由さを感じている人もいると思います。
津田:そう、だから携帯で着うたが使えるというよりも、iPodに通信機能がついて、iTunes Music Storeからガーッと曲をダウンロードできるという環境が理想なんですよね。
小寺:そうですね。
津田:Appleもそれは考えていると思うんですよ、PCを介さない方法というものを。
――着うたはヒットしてますが、PC向けの音楽配信は普及してませんよね?
津田:今の日本の音楽配信サービスでは、買ったPCで聞くことを前提にしているものが多いですよね? 僕もプリンスが音楽配信で先行発売した楽曲を買いましたけれど……、聴かないですねぇ(笑)。買った事務所のPCでしか聴けないということになると、ほんの2、3回聴いて終わりになっちゃう。結局CDで買い直しましたしね。「これじゃあ普及しないよ」と感じました。
CDより半額だったりすれば、「まぁいいかな」とも思いますけれど、そこまで安価なわけでもないんですし。
――音楽配信サービスの場合、曲の価格設定方法が今ひとつ分からないという意見もあります。
津田:汎用性の高いCDパッケージの価格が一番高いというのは理解できます。(しかし現状では)パッケージより使い勝手の悪い音楽配信での販売価格がパッケージより割高に感じられてしまうというのは大きな問題です。
音楽配信を試聴的に捉えている人も多いので、そうした層に対象を絞って思い切って価格を下げるか、音楽配信自体に魅力を持たせるために、パッケージと同じような自由度を与えるか、どっちかにする必要があると思います。現状は非常に中途半端ですね。
――CDパッケージの価格が高いのはマーケティング費用がかさむからだという主張もあります。その点、音楽配信にはマーケティング(PR)としての役割も期待されています。マーケティングの一環として捉えるならば、音楽配信サービスの価格はもっと下がってもいいのではと感じますね。
津田:そこで問題になるのが、著作権料の割り振りをどうするかなんです。音楽配信ってCDと違って物理コストや流通コストがかからないわけですから、当然アーティストや事務所側は自分たちへの分配を増やしてほしいと主張しますよね。ただ、サービス事業者側はCDと同じ分配率でやりたい。そこのところでレコード会社と事務所で折り合いが付かず、配信に楽曲を提供しないケースもあると聞いています。そういう事情もあって、音楽配信の曲数がなかなか増えないのではないでしょうか。(次回に続く)
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