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第二回:「コピーの全否定は問題」――音楽業界のジレンマ特集:私的複製はどこへいく?(1/2 ページ)

» 2004年08月26日 15時27分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 PCやデジタル家電、ポータブルAVプレイヤーなどによって、映像・音楽の多彩な楽しみ方が提案されるようになってきた。ところが肝心のコンテンツの取り扱いについては、むしろ厳しい制限が課せられるようになっている。

 例えば、音楽の世界で言えば、LPレコードの時代には、私的複製についてかなり寛大だった。レコードジャケットには、「レコードから無断でテープその他に録音することは法律で禁じられています」といった文言が記載されているものの、友人間でレコードを貸し借りしてカセットテープに録音したり、レコードを1枚丸ごと放送するラジオ放送があってそれをエアチェック、友人間でダビングしたりするといったことは、ごく普通に行われていた。

 レコード会社側がそれに対し特に目くじらを立てるようなこともなく、むしろ音楽ファンを増やすための一種のマーケティングとしてそれを許容していたようなフシもある。実際、50年代〜60年代生まれの世代では、そうして音楽ファンになっていった人たちがかなりの部分を占めることだろう。

 80年代に入り、流通手段がCDに変化しても、MDなどデジタルオーディオ機器での孫コピー作成ができない仕組み(SCMS=Serial Copy Management System)が導入されたぐらいで、自分で購入したオリジナルの音源を複製することは、私的複製の範囲内であれば自由に行えた。

 しかし、2002年に発売されたCCCDは、技術的な方法を用い、収録された音楽をPCのHDDなどに複製できなくした。「カセットテープやMDへの複製は許すが、PCへの複製は禁止する」という形で、私的複製へのコントロールが始まったのだ(CCCDで導入された技術が、著作権法上で私的複製の例外とされる「技術的保護手段の回避」にあたるかどうかという微妙な法律論はここではひとまずおいておくことにする)。

 そして現在、音楽業界は“CD”というパッケージでの販売に加え、インターネットを利用した音楽配信というファイル単位での販売サービスにも積極的な動きを見せつつある。CDからHDDへの複製を禁止しながらも、PCやHDDプレーヤーなどで取り扱うことを前提とした音楽ファイルの販売サービスも推進する音楽業界。今、彼らは何を考えているのだろうか。

「むしろコピーはしてほしい」――SME

 「むしろコピーはしてほしい」と語るのは音楽配信サービス「bitmusic」を運営するソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)の井出靖氏(コーポレート・スタッフ・グループ 広報チーム シニアマネージャー)。

photo bitmusic

 bitmusicでは提供している音楽ファイルに対して、「再生には専用ソフトが必要」「ポータブルデバイスへの転送(チェックアウト)は同時3カ所まで」「CD-Rなどにバックアップはできるが、オーディオCDとしての保存は不可能」といった制限を課している。

 「クリエーターとレコード会社の権利を守るためにはある程度の保護は必要」と井出氏は著作権保護の必要性を述べるが、ユーザーの立場から見た場合、bitmusicの定めるルールは、音楽CD(CD-DA)時代のSCMSより、利用制限が厳しくなっているように感じられる。

 これについて、井出氏は「CD→MDコピー(の許容)は、アナログ→カセットテープへのコピーのような、オーディオの世界では私的複製として認められてきた流れの延長。コンテンツがデジタル化し、PCがオーディオの世界に接近して、より容易にコピーが行える現在、安直なコピーは防止しなくてはならない」と説明する。デジタル化の流れに沿って、当然、私的複製の範囲や制約も変化するというわけだ。

 ただ、その井出氏も、「コピーの全否定は大きな問題」と言う。

 「聞く場所やシチュエーションを選ばずに楽しむことができるというのは、音楽の持つ大きな魅力の一つ。一概にコピーを禁止することは音楽自体の楽しさを損ない、ひいては業界の衰退を招きかねない」

 「1999年11月という、国内レーベル主導のものとしては比較的早期に音楽配信サービスを開始したのも、当時はびこりつつあったP2Pによる違法音楽ファイルの交換に対抗して、“音楽は無料ではない”という意識付けを行いたかったから」

 また、私見であると前置きしながらも、「ある程度の制限は行いたいが、音楽を楽しむためのコピーはしてほしい。利用方法に応じ、コピーをする度に対価が支払われるような仕組みがあれば理想ではないか」と私的複製の理想型を語る。

 現在パッケージ販売されている邦楽CDは1枚3000円前後だが、この価格を1500円などに下げ、その代わり、ポータブルオーディオやカーオーディオにコピーする際には新たに料金を支払う、そうしたモデルが実現できれば理想だという。

 「もちろん、コピー回数や私的複製の範囲をどう解釈するかなど、まだまだディスカッションが必要な部分は多い」と井出氏が言うように、その理想を実現するに越えなければならないハードルは多い。

理想の私的複製を実現する技術とは?

 著作物に対して全くの保護を行わないことはもちろん考えられないし、画一的な複製の禁止は現実にそぐわない。コピーを許すならば、提供者側である程度のコントロールを行いたい――TV業界と同じく、音楽業界もそのような考えを持っているようだ。

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