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» 2004年11月29日 15時12分 UPDATE

著作権問題――「旧体制はそう簡単には壊れない」

JASRACは「音楽コンテンツ流通の現状と未来」と題したシンポジウムを開催、文化庁長官官房著作権課 課長の吉川晃氏がコンテンツ流通と著作権についての講演を行った。

[渡邊宏,ITmedia]

吉川氏が感じている著作権に関する「疑問点」

 2003年7月から現職を務める吉川氏は、著作権という視点から音楽・映像・書籍などコンテンツについて「感じられる疑問」として、いくつかの問題点を指摘した。

photo 文化庁長官官房著作権課 課長の吉川晃氏

 音楽については「ネットライブを“実演”として保護するかどうか」「ネット上の著作物をどう定義するか、また、ダウンロードを著作物の“発行”としてとらえて良いのか」「私的録音録画補償金制度の見直し」などの問題を指摘した。

 なかでも、私的録音録画補償金については「早急に議論する必要がある問題」だという。現在、ブランクのMDなどにはこの補償金が上乗せされているが、iPodを始めとしたHDDプレーヤーは「汎用機」(PC周辺機器)として扱われており、上乗せがなされていない。

 この点について、コンテンツホルダー側からは「機会損失である」という声があがっているが、プレーヤーメーカーからは「汎用性を持っている以上、補償金を上乗せするのは適当ではない」という反論がなされている。

 吉川氏は「私的録音が野放しになっているという主張もあり、早急に解決しなくてはならない問題だ」と述べるにとどまり、問題の重要さは認識するものの、具体的にどういう方策をとるのかどうかについてはコメントを避けた。

 同氏は音楽以外では、「インターネットによる映像配信の権利処理をどのように行うか」「電気通信役務利用放送(ADSLなど高速回線を用いた映像サービス)を有線放送とするか」、「電子書籍などインターネットによる配信を“出版”と定義するか」「文字・絵画のみを対象としている“出版権”の内容を変更するかどうか」などの問題点を指摘した。

著作権法側から見た流通の問題点――私的複製の肥大化

 「著作権法は昭和45年に作られたもので、現在の流通に対応できなくなってしまっている」。吉川氏はこのような表現で現状と法律のズレを表現するが、著作権法側から流通の現状を見た場合にも問題点が散見されると言う。

 音楽CDのコピーやデジタル万引きなど、法律施行時には想像もできなかったような複製が行われている現状を指し「権利者には酷な複製が行われるようになっている」と述べるほか、「違法なものがインターネットを介して利用されている現状もある」と“私的複製の範囲”があまりにも肥大化していることを問題視する。

 そのほかにも流通面に関しては、「可能性は豊かだと認識しているが、顧客からの対価を集めることについて未成熟。多くの場合は需要自体が不足している」と、一部では市場そのものが成立していないことが大きな問題点であるという。

これまでは条約の対応に追われてきた著作権法改正

 著作権法は平成に入ってから改正が相次いでいる。主なものだけでも、ローマ条約に関する改正(平成1、3年)、WTO協定に関する改正(平成3、6、8年)、WIPO実演・レコード条約に関する改正(平成9、11、14年)などがあり、今夏には還流防止措置などを盛り込んだ改正が可決されている。

 しかし、吉川氏は「平成14年度ぐらいまでは条約の対応に追われてきた印象がある。ようやく去年あたりから“知財立国”を目指す政府の方針に沿った改正に着手できるようになってきた」と国内の実情にあわせた活動はようやく本格化してきたばかりだという。

 著作権法の改正対象として現在検討中、もしくは検討していくべきテーマとして吉川氏が掲げたものには、以下のようなものがある。

  • 非営利、無料、無報償上映の制限
  • 私的録音録画補償金制度
  • 著作権の保護期間
  • 中古流通のあり方
  • 版面権(報償請求権)
  • 技術的保護手段の回避に係る法的規制の対象拡大
  • 著作権法の簡素化
  • 権利制限規定のあり方
  • デジタル時代に対応した法制度のあり方
  • 通信役務利用放送の位置づけ

 これらの問題に対して著作権分科会などを通じて積極的に取り組んでいくとしている。だが、中古流通の問題については「反対意見も多く、著作権的な手法で対応するかどうかは慎重に検討しなくてはならない」(吉川氏)という状態。このため、著作物に関連する事項をすべて著作権上の問題としてとらえず、産業・流通上の問題として考えることも重要であると指摘した。

「アンシャン・レジームはそう簡単には壊れない」

 著作権にまつわる問題については、「著作権者の利益を保護する」という基本原則は存在するものの、権利者−利用者の利害関係や社会情勢、技術の進歩など多数の要素を内包しており、単純に解決できるものではない。

 「急速な改革への危ぐがあることは分かっている。アンシャン・レジーム(旧体制)はそう簡単には壊れない」。

 吉川氏は経済社会の発展をふまえた上で、著作権法について「100年に一度」(吉川氏)というような大きな改革を行うのではなく、戦略的かつ包括的な検討を行っていくことを方針として掲げる。その上で、「コンテンツ流通に後れを取らない法制度」「司法救済を含めた権利保護のための総合的な保証」「学校や図書館など公益的な利用への配慮」を進めていきたいとした。

 また、著作物の公正使用(フェアユース)については、「フェアユースを導入して、そのガイドラインを著作権課として出すと言うことは考えられない。著作物利用に関する限界を明確に示しながらというのが現実的な対応ではないだろうか」と否定的な見解を述べた。

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