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「デジアナ空間分譲地ビジネス」は離陸するか?(1/5 ページ)

» 2004年12月27日 16時48分 公開
[竹村譲,ITmedia]

“バーチャル空間の分譲販売ビジネス”が日本でもスタートした

 当時、「CrossPad」の製品企画を担当していた筆者が、老舗の万年筆専業メーカーのトップから、当時はまだ誰もやる気のなかった“Bluetooth機能”を搭載した「デジアナ・ボールペン」の開発意図を伺ったのは、もう3〜4年も昔の話だ。

 今日では、スウェーデンのAnoto ABが携帯電話キャリアと組んで、既に欧州でアノトペンの販売を開始している。同社はまた、日本国内でも日立マクセルなどとパートナーシップを組んでビジネスを開始しており、“デジアナ・ボールペン”は水面下のビジネスから浮上している。Anotoの組んだ相手が乾電池などで有名な“日立マクセル”と聞いて不思議に思った読者も多いだろうが、「ユビキタス=日立」を理想に掲げる日立グループ全体のベクトルに沿ったストラテジーと考えれば、それほど外れた話ではないだろう。

 Anoto社の狙いは、平面スペースに専用のペンで記述されたアナログ情報を活用するビジネスインフラ事業を、ビジネスパートナーと協業して普及させることだ。言わば、自らが開発した理論による“広大なバーチャル平面空間”を管理・販売しようとしている“不動産業者”のような存在なのだ。

 昨今、インターネット上で「月の土地」を専売するビジネスが流行しているが、月の土地は1エーカー(約1200坪:サッカーグラウンド1個分)当たり約2700円で販売されている。だが、Anoto社の土地は、坪単価などの明確な価格提示は一般にはされていない。

 とはいえ、論理上のバーチャルな平面空間なので、その土地が砂漠だとか、沼地だとか、温暖な気候だとかの区別もないので、場所によって地価が異なることもないだろう。将来、あまりにも多くのパートナーが土地を求め、供給以上の需要が起これば、リアルワールドで起こったバブル騒ぎも起こりえるが、現在の所、それは夢のまた夢であろう。

ドットパターンの組み合わせでできた“バーチャル・ユーラシア大陸”

 Anoto社の提供するバーチャル空間は、平面上の縦横に交差する仮想の直線群が作り出すマトリックス上の交点にあるドットパターンの位置情報が基本となって仮想的に作り出される。

 実際には、リアルな紙の表面に、線間隔が0.3ミリの平行直線グループが、縦横に直角交差し、その結果、出来上がった仮想の交点を中心に、小さなドットパターンが実際の交点位置の少し上側か下側か、右側か左側に置かれている。決して交点の真上には存在しないように印刷されているのがポイントだ。たった一つの交点に関して言えば、その交点位置だけで4種類のドット位置が存在することになる。

 実際には、縦横の直線は論理的な存在で、目に見えることはない。交差点付近に存在するドットパターンも微少で比較的薄い色の印刷で行われるため、紙の表面は、Anoto社風に言えば、「薄いオフホワイト」。悪く言えば、埃が付いて多少薄汚れたように見える。共通点はどちらも「薄い」ということだ。しかし、これはこの用紙の上に実際にボールペンで文字や絵を記述する訳なので、コントラストの観点からも非常に重要なことなのだ。

 無数の交点付近に存在するドットパターンで埋め尽くされたノートブックの一枚のページの上を、毎秒数十回の「連続スピードシャッター」を切ることが出来る超小型のCMOSカメラを先端に搭載したボールペンのようなデジタルペンが、インクの筆跡を残しながら、同時にトレースして行くのである。

ペン先は細かなドットパターンでくすんで見える紙の上に筆跡を残す

 ペン先に取り付けられた「CMOSカメラ」が、ある一瞬にとらえることができる視野エリアは、縦6ドット、横6ドットの全部で36ドットのスクエアなエリアだ。前述したある交点におけるドットパターンは、おのおの上下左右と4種類あるので、36ドットなら全部で4の36乗分の組み合わせが考えられる。これは生粋の文化系で、極端に数字に弱い筆者にも分かる簡単な算数だ。

ペン先のすぐ横に位置するCMOSカメラ。秒数十回のシャッターを切る

 前述したマトリックスの構成要素である直線の交点間隔が0.3ミリであることを併せて考えると、論理的に仮想空間に作ら上げられる総面積はなんと6000万平方キロという膨大なエリアとなり、これは日本やインドネシアをも含むユーラシア大陸全部とグリーンランドを合わせたのと同じくらいの総面積になるのだという。

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