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日本にサマータイムは有効か(2/3 ページ)

» 2005年04月04日 08時47分 公開
[小寺信良,ITmedia]

どの程度効果があるのか

 まずエネルギーの節約に関してだが、これにはいろいろな説がある。1999年当時の通産省の試算では、原油換算で年間約50万キロリットルの省エネになるという。一部の説の中には約5億リットルと表記するものもあるが、5億リットルと50万キロリットルは一緒なので、数字のイキオイだけで態度を決めるのは危険だ。

 また、この数字は果たしてどれぐらいの規模なのかをしっかり把握すべきだろう。日本が年間で使用するエネルギー量から考えれば、この数値は0.125%に過ぎない、という意見もある。

 まあ仮に幾ばくかのエネルギーは節約できるとしても、サマータイムを実現するためのコストは結構かかる。数年前だったか、日本全国の信号機のプログラムを対応させるのに500億円かかるという話を読んだことがある。飛行機の国際線をはじめ電車の運行ダイヤなど、交通機関にかかる負担はかなり増えると思われる。

 また導入に対する混乱も、予想しておく必要がある。筆者はたまたまサマータイムが実施される前日に渡米したことがあるが、同行した友人の部屋は、ホテルのメイドが目覚ましをサマータイム時間に修正してくれなかったため、カンファレンスに遅刻した。筆者の部屋はというと、時計はバッチリ1時間前にしてあったのだが、AMとPMを逆にセットしてくれちゃったために、破格に寝坊した。こんなのは旅行者特有の笑い話かもしれないが、実際に起こり得る話でもある。

 2の屋外作業の生産性向上に関しては、以前日本でサマータイムを導入した時の話が参考になるだろう。戦後まもなくの昭和23年(1948年)に、日本でもGHQの始動によりサマータイムが導入されたことがある。当時発表された小説などを読むと、「サンマータイム」などと書かれていて、微笑ましい。

 このときのサマータイムは、国民にコンセンサスを取る間もなく突然実施されたという経緯もあって非常に不評で、昭和27年、GHQの廃止とともに廃止となっている。具体的な不評の原因としては、当時日本では第一次産業の従事者が多く、もともと習慣として日が暮れるまで働いていたものだから、さらに朝1時間分労働時間が伸びただけという結果になってしまった点が大きい。

 そもそも乳牛や魚相手に、今日から1時間早いからヨロシク、などといっても始まらない。特に毎日の自然が相手の近海漁業では、漁獲高にも影響が出るだろう。従来の時間のままでやればいいのでは、という話もあるが、それでは競りの時間が一時間遅れることになり、ひいてはスーパーや寿司屋の準備時間が1時間減ることになる。自分だけ元の時間で勝手に生きる、というわけにはいかないのが、サマータイムの難しいところだ。

 2の事情ともつながるのだが、3の余暇の拡大については、疑問を持つ声が大きい部分だ。就業時間が決められている勤め人にとっては、結局朝早く働かされ、終わりはまだ日が高いからという理由で残業させられ、結果的に就業時間が延びるだけという危惧は、もっともなところである。

 これには何らかの法案と連動して、サマータイムに起因する労働時間超過に対して、厳しいチェック機構がなければ、なかなかコンセンサスは得られないだろう。

 4の交通事故、犯罪の防止・減少については、3と関係してくる。つまり余暇ができたとして、それをどこで過ごすかによるわけだ。まだ明るいうちに家に帰って、余暇を家で過ごすのであれば、確かに事故や犯罪の抑制効果はあるだろう。

 だが余暇を会社帰りに過ごすのであれば、日のあるうちから一杯ひっかけたあと、まだ夜も更けぬうちに大量の酔っぱらいが街に繰り出すということにもなりかねない。まだ明るいからと若い女性や中高校生が街を歩いていると、余計なトラブルも発生するだろう。

本当の効果はどこにある

 サマータイムの効果を推測して数値で表わそうとすると、そこには必ず矛盾が生じる。地理的にも産業構造的にも、日本のような国での導入には、参考になる資料が少ないのである。

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