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NHKの受信料制度についての1つの考え方(1/2 ページ)

» 2005年04月15日 14時50分 公開
[西正,ITmedia]

 NHKの一部職員が引き起こした不祥事の結果、受信料の不払い者が急増した。筆者は一度払わなくなってしまった人が、再び支払うようになることはあまり期待できないと考えている。となると、NHKの受信料制度のあり方そのものを改めて検討してみるべき時に来ているのではないだろうか。

受信料制度の難しさ

 NHKの受信料は、テレビ受像機を保有している世帯に対して支払いが課せられる形になっている(放送法32条1項)。対象になるのは1台目のテレビだけで、2台目、3台目のテレビについては支払う必要はない。今後の受信料制度のあり方を考える上では、この基本的な部分について確認しておくことが不可欠になる。

 「わが家ではNHKは見ていません」という理由で支払いを拒む人が多いと聞くが、放送法32条1項には「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」とある。つまり、見ているか、いないのかは関係ないのである。“見ていない”ことを根拠に支払いを拒むことは、法律上、全く理屈になっていないのだ。付け加えれば、そう言って支払いを拒んでいる人たちの多くが、実際にはNHKの番組を多少なりとも見ているであろうことは、容易に想像がつく。

 放送法32条1項には罰則規定がない。それをいいことに支払いを拒んでいるだけの話、と受け取れないこともない。これまで、こうした世帯がある程度の割合で存在することは黙って見過ごされてきた。

 ところが、昨年来の一連の不祥事が、支払いを拒むための口実として実に申し分ないこともあって、受信料を支払わない世帯が急増してしまった。だからと言って、払うべきものを払わずにNHKの番組を見ていることが、NHKの責任を問う方法として正しいとは、どうしても筆者には考えられない。

 逆に言えば、支払わなくても罰則がないにもかかわらず、7割を超える世帯が支払っているというのが、NHKの受信料制度のこれまでの実情だった。世界的に見ても類例は一切見られない。極めて稀有な制度であり、それを支えてきたのが、日本人のモラルの高さだった。

 しかし、今後の行方をあえて予想すると、大きな流れとしては、不払い件数は増えることはあっても、減ることは考えにくい。となると、公共放送であるNHKの収入の大半が受信料に依存している以上、NHKを存続させていくための何らかの次の手を打っておくことが必要になってくる。

どうやったら強制力を持たせられるか

 「NHKなんか不要だ」と主張する人はあまりいないだろう。商業放送では採り上げにくいような、あまり多くの視聴者を集められるとは思えない内容の番組であっても、放送というメディアで伝えていくことは重要である。それができるのは事実上、NHKだけだ。また、災害が発生した際に、誰もが自然とNHKを見てしまうのは、その報道についての信頼性が高いことの証しでもある。

 また、NHK放送技術研究所(技研)による研究開発が、放送の進化を支えていることも間違いない。デジタル放送の目玉であるハイビジョン放送も、NHKの技研から生まれている。今後、放送と通信の融合により、新たなサービスが登場してくることになるだろうが、その際にも、技研が放送事業者側の研究開発機能において大きな役割を果たしていくことになるだろう。

 しかし、受信料収入の減少に歯止めがかけられなくなると、公共放送のこうした役割を果たすことが難しくなってしまう。筆者が受信料制度の見直しを検討せざるえないだろうと述べたのはこうした事情による。日本オリジナルの制度に見直しが必要になるということは、ある意味では寂しい限りだが、現実論に立って考えれば、やむを得ないことだと思っている。

 世界を代表する公共放送は、わが国のNHKと英国のBBCである。ただ、この2大巨頭の受信料徴収制度にはかなりの違いがある。英国BBCの視聴料の支払い義務にはかなりの強制力があり、支払いを怠った者は、懲役または罰金刑に処せられる。また、視聴料の支払い証明を見せない限り、テレビ受像機を買うこともできないようになっている。まったく初めて買う場合には、支払い申込みがセットの手続きとして必要になる。

 このBBCのやり方は、NHKの受信料制度のあり方を検討する際、参考にはなるだろう。だが、罰則規定というものは“後出し”ができないものでもある。それゆえ、NHKの受信料の受信料支払いに強制力を持たせるには、BBCとは別の方法を考える必要がある。

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