コラム
» 2005年05月12日 12時11分 UPDATE

西正:「デジタルデバイド」という言葉が示す供給者側の怠慢 (1/2)

放送のデジタル化が進む中で、中高年齢層がデジタルサービスの提供を受ける“技量”を持てるかどうかが心配されている。しかし、メインユーザーがいったい誰なのかを考えれば、「デジタルデバイド」などという言葉を使っていること自体、サービスや機器提供側の怠慢を表しているのではないだろうか。

[西正,ITmedia]

一例としてのデジタルテレビ

 放送・通信の高度化が進み、デジタル家電の高機能化にも拍車がかかっている。一方で、わが国は着実に高齢化社会へと向かっており、そうしたサービスをうまく享受できない人が増えていくことが懸念されている。業界はそれをもって「デジタルデバイド」だと呼んでいるのだが、本当に懸念すべきポイントが大きくずれているように、筆者には思えてならない。

 デジタルテレビを例に考えてみよう。液晶やプラズマを使った薄型のテレビが好調に売れている。この不景気な中であれだけの高額商品が売れているのだから、販売店にとっても目玉商品になるのは当然のことである。新聞の中には、よく量販店の折り込みチラシが入っているが、デジタルテレビはそこでも大きく採り上げられている。

 しかし、そのチラシをよく見ると、明らかに供給者側の勘違いの一端が見てとれる。デジタルテレビには、「地上デジタル、BSデジタル、110度CS放送対応」といった文字が付されているが、スペースの関係もあって、「**デジタル」や「110度CS」という言葉の内容までは書かれていない。「D3端子」や「D4端子」などとも書かれている。もちろん何の説明もない。

 同じ折り込みチラシの中には、スーパーの食品売り場のものがあるが、こちらは非常に分かりやすい。電気店のチラシと食品売り場のチラシを見比べて明らかなのは、食品売り場のチラシには専門用語など使われていないという点である。

 業界関係者でもない限りは、世の大半の人にとって、テレビ放送を見ることなど、全く特別なことであるとは考えられていない。放送がデジタルになると聞いても「だから何だ」ということにしかならない。見たい番組がちゃんと映れば、それで構わないのである。別に高齢者ではなくても、(ITmediaのようなサイトを見ている一部の人たちを除く)大半のユーザーにとって、テレビを買い替える際に、今のチラシのうたい文句は意味不明なのである。

 チラシを見ても分からないなら、電気店の売り場で聞けば良いという意見も聞く。だが、これは知的好奇心の問題ではないのだ。まずは、あまり難しいことを書かれても、かえって迷惑だというユーザーの気持ちを知っておくべきだろう。

 新しいテレビを買おうと考えたユーザーが電気店に行って、売り場に並ぶテレビを見て回ったとする。薄型のテレビは場所も取らないし、デザインも良いから、買おうと思うかもしれない。チラシと同様に色々なことが書いてあるのを見たら、電気店の店員に説明を求めることになる。

 ここでユーザーにとって重要な点は、操作の難しい機能が色々と付いていても自分には使いこなせないなら、それを取り払った場合にどれだけ安くなるかということである。

 それに対し、電気店の店員は、使わない機能が色々と付いているから価格が高いわけではないということと、「今、ご覧になっている放送がデジタルに変わります」「そうなると、売り場に並んでいるテレビのようにハイビジョンのきれいな画質で見ることができます」「アンテナを付ければ衛星放送も見られます」「有料の各種専門チャンネルがご覧になれます」「VTR、DVDなどの機器も何個まではつなぐ端子があります」と順に説明していくことになる。「だったら、最初からそう書いてくれよ」――それが一般的なユーザーの平均的な気持ちだろう。

 食品だから簡単だというわけではない。最近は、安全面や栄養面の情報も多い。しかし、聞かれもしないことを、専門用語を羅列することが売り上げ増につながると限らないことは、食品売り場の人の方が良く分かっているではないだろうか。チラシには、お客に買いにきてもらうのに必要な情報だけが書かれているからだ。このように両者に差が生じているのは、売り物が毎日のように買いにきてもらう物なのかどうかという点に尽きるだろう。

 もちろん、あの程度の単語の意味なら知っているという人も多いだろうが、それならば逆に、そういう人は新聞のチラシを見て物を買うタイプなのかどうかが疑問である。

 高価なデジタルテレビを購入する資力を持つのは、その多くが中高年層である。テレビを見るのは好きだが、若い人たちのように携帯電話やネットを使いこなすのは苦手な層とも言える。主要な顧客層にそうした特徴があるのに、それを無視して、難解な宣伝をしているようでは、表に出ないところで多くの顧客を逃がしている可能性を否定できない。

 「モノ」を売っていくに当たって、最大のターゲット層に向かってピーアールしていくことはマーケティングの基本である。それが少々面倒な説明を要するとからといって口実を設けて避けていては、商売が成り立つはずがない。筆者には「デジタルデバイド」という言葉が、その口実のように使われているように思われてならない。

「デジタルデバイド」で済ませてしまう危険

 デジタル放送についても同じことである。高画質のハイビジョンであるとか多チャンネル放送であると言われても、中・高年層の中には分からない人が多い。テレビなど見られれば十分だと考えている人が多いので、わざわざ面倒な知識を取得しようという気にすらならない。特に高齢者についてはその傾向が強い。

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