コラム
» 2005年06月02日 17時38分 UPDATE

移動通信サービスに動き出すJ:COMの狙い (1/2)

わが国最大のCATV統括運営会社、J:COMが移動通信サービスの提供に向けて動き出した。いずれ避けられぬ大手通信事業者との競合に備えるためだが、先手、先手で事業規模を拡大していく戦略の妙により、同社の収益性が向上していくことは間違いなさそうだ。

[西正,ITmedia]

トリプルプレーの次なる一手

 ジュピターテレコム(J:COM)がMVNO(移動体通信再販事業者)の形態で、早期に自社ブランドによる移動電話サービスを提供する方針を打ち出した。同社では年内にも移動通信事業者との合意を取り付ける計画だ。

 放送、インターネット、電話の3種類のサービスをセットで提供する“トリプルプレー”が、CATV業界や通信業界の標準モデルになっているが、J:COMの場合、それに移動電話を加えたクワトロプレーの事業展開を行っていくわけだ。

 この3月、ジャスダック市場に上場を果たしたJ:COMだが、経営の最優先課題が、事業規模の拡大と、ARPU(加入世帯当たりの月間平均収入)を高めることの2点にあることに変わりはない。CATV事業にとっては、日米両国において同時並行的に、大手通信事業者との競合の構図が明確化しつつある。

 トリプルプレーの提供は、この競合に勝ち抜くうえで必須となっているが、サービス力をアピールするには面的な広がりが不可欠だ。ところが日本のCATV事業は、その生い立ち当時の行政方針により、地域に細分化したエリア展開となっている。その意味で地域のCATV事業者にとって、J:COMとのアライアンスが1つの有力なソリューションであることは間違いない。このため、192万件を超えるというJ:COMグループの加入世帯規模(05年3月現在)は、今後さらに拡大していくことが予想される。

 また、J:COMのARPUが7291円(同上)と関係業界他社比で高水準にあるのも、同じくトリプルプレーを提供している中で、VoIPではなくプライマリーな固定電話(0AB-J番号を使用)サービスを提供していることが強みになっている。

 この事業規模の拡大に合わせる形で、ARPUを上げていくための次の一手が、移動通信サービスの提供、すなわちクワトロプレー展開というわけだ。米国では既に、大手CATV事業者と通信事業者との競合が強まっているが、CATV業界の主流は移動通信サービスをも加えたクワトロプレーに向かっている。

 もっとも、通信事業での競争の行き着く先は、必ずと言っていいほど価格競争になっていく。低価格化戦略によって競争に勝ったとしても、肝心のARPUは下がりこそすれ、上がることはない。そういう意味では、通信事業の幅を広げるだけでなく、放送サービスとの連携が不可欠の経営課題となる。

 移動電話機を使って、CATVで提供されている多チャンネル放送のEPGデータを閲覧するとか、有料番組の視聴予約をするような使い方が想定されている。CATVとの連携ということでは、ちょうど子機を持ち歩くような感覚に近い。外出先でも電話を受けられるとか、留守宅のモニタリングが出来るとか、色々と応用の効きそうな仕組みとして発展していくことになりそうだ。

解約防止策にもなるセットサービス

 トリプルプレーの提供で競争力を得られるということは、クアトロプレーを提供すれば、さらなる強みが見出せることになる。

 放送、電話、インターネットは今や、生活必需品となっており、ライフラインともいえる位置付けにある。いわばすべての世帯が必要とするサービスになっているのである。1つの事業体がトリプルプレーで3点セットを提供するということは、当然のことながら価格としてはセット料金が適用されることになる。実際、J:COM傘下のCATV事業者(17社32局)は、放送、固定電話、インターネットの3つのサービスを割引料金で利用できるパッケージサービスを提供している。

 いずれも生活必需品であるならば、一事業者からセットで提供を受けることにより、割安でサービスを受けられることのメリットは大きい。一世帯当たりのサービス加入数(3つのサービスのうち、いくつを利用しているか)は、04年3月末の1.57から、05年3月末には1.67に増えている。これがARPUを上げる原動力になっている。

 クワトロプレーを提供すれば、移動電話という新たなサービスが加わる。既に国内で9千万台以上が普及しているという移動電話である。言うまでもなく、生活必需品の仲間入りをしているといえるだろう。J:COMは移動電話を単体サービスとして提供するが、既存の3つのサービスと組み合わせた割安のセット料金も設定する方針である。そうなれば、一世帯当たりのサービス加入数が向上することは間違いなく、ARPUは更に高まっていくということになる。

 こうして、他のCATV事業者とのアライアンスを進めていきながら事業規模を拡大させ、クワトロプレーの提供によりARPUを高めていくことになれば、先に挙げた経営の優先課題は着実に達成されていくことになるだろう。

 もちろん、米国と同様に、わが国でも大手通信事業者がクワトロプレーに乗り出してくることは間違いない。それだけに、J:COMとしては是非とも先行者メリットを生かしていきたいところだ。大手通信事業者と比べてJ:COMが有利な点は、CATV事業者の基本的なビジネススタイルとして、訪問営業を行うなど地域密着の事業展開を行っていることだ。4つ目のサービスとして移動電話を売り込んでいくにしても、訪問営業の積み重ねによる加入世帯とのコミュニケーションの強さが大きな武器となるはずだ。

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