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総務省が打ち出した地デジのIP、衛星再送信実験――その真相は?西正(1/2 ページ)

» 2005年08月19日 12時44分 公開
[西正,ITmedia]

IP、衛星再送信は「条件不利地域」への対応が主眼

 地上デジタル放送(以下、地デジ)の再送信手段として、新たに光ファイバーによるIP方式、衛星を使う方式の2つが検討課題となっていることが明らかになり、その適正さを検証するための実験が行われることになった。

 いずれも水面下では検討が続けられてきたものだが、そもそもこうした検討が行われた理由は、2011年7月24日に予定通りアナログ放送を終了させるための条件として、「デジタル波が届かない地域を皆無にしなければならない」という考えがあったからだ。

 人口密度が低いとか、地形的な問題とか、さまざまな理由で地デジを届けることが難しい地域(以下、条件不利地域)が出てくることが避けられない。もちろん都会のビル街にも難視聴のエリアは出てくるだろう。しかし、地上波放送のデジタル化自体が国策として進められている以上、新たに出てくるデジタル難視聴エリアを放置しておくわけにはいかない。

 北海道のように広大なエリアや、瀬戸内、有明のように多くの島々を抱える放送局にとっては、従来型の伝送手段で送るには、あまりに地元の放送局の負担が大きくなってしまう。そうである以上、IP方式や衛星によって地デジを再送信することも検討すべきだというのは、やむを得ない結論だっただろうと思われる。

 ただ、これまでそうした再送信手段は放送局の嫌う「水平分離」に近い議論になりかねないため、基本的には認めないというのが既定路線であった。だから、ここに来ての突然の政府の方針転換に動揺する関係者が多いのも非常によく分かる。

 しかしながら、新たな再送信手段の検討を行うのは、あくまでも条件不利地域を解消するための補完的な手段として適正であるかどうかを試すためであって、それ以上の規模にまで拡大していくという話ではない。

 IP方式による再送信では、放送エリアの限定、放送の同一性の保持、匿名性の担保、HD放送への早期対応などの課題を抱えている。また、衛星による場合にも降雨減衰の問題があるため、放送の安定性に課題を残している。

 衛星は全国一波ではあるが、ICカードで切り分けることができるので、エリアの問題はクリアできる。実際に、米国ではローカル局の放送は衛星経由で再送信されているケースが多く、そこでもエリア管理はなされている。

 条件不利地域の多くが人口密度や地形的な問題から発生してくることを考えれば、衛星による解決が望ましいことは言うまでもない。STBやアンテナが必要になるため、それを視聴者側に負担させるかどうかという議論は残るが、それは技術的な問題ではなく、デジタル化を進める行政側の政治問題である。

 一方、条件不利地域の多くは、新たに光ファイバーを敷設するにしても採算を取りにくいことは同じなので、都会のビル街の難視対応に使われることになるだろう。ただし、技術的にクリアできるかどうかという点で課題も多いことから、実験で検証されるべきテーマも多くなりそうだ。

 地上波局の立場からすると、条件不利地域の解消のためとは言え、諸手を挙げて積極的に取り組んでいこうというほどの再送信手段でないことは明らかだ。そうである以上、あくまでも限定的な取組みでしかなく、こうした新たな再送信手段が今後の主流になっていくとは考えられない。

CATV事業者への影響

 IP方式や衛星による地デジの再送信が実験としてであっても始まることに対して、もっとも過敏に反応したのがCATV事業者であったのは当然だろう。

 政府というのは、政策の立案に当たっては「日本的な根回し」を最優先に考えるにもかかわらず、今回のような新たな取組みに踏み切るに当たって、CATV事業者には何の根回しも打診も行わなかったようである。となれば、混乱を招くことになるのは当然の帰結であろう。

 事前に必要な説明を行っておけば、反対意見は出たかもしれないが、あくまでも限定的な対応であることについて、理解を得やすかっただろう。ところが今回は、混乱を起こしておいてから改めて説明をするというスタンスになった。誤解やあらぬ憶測が生まれてしまってからになるため、返って双方の理解に時間がかかってしまうのはやむをえない。

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