コラム
» 2005年08月22日 09時50分 UPDATE

小寺信良:人はなぜ音楽を買うのか (1/3)

鳴り物入りで登場したiTMS-Jが好調だ。我々は今、音楽販売でのパラダイムシフトを目の当たりにしている。ここで原点に戻り、「なぜ人は音楽を買うのか」というところを考えてみたい。

[小寺信良,ITmedia]

 iTunesミュージックストアが人気である。サービス開始4日後に発表されたニュースでは、既に100万曲を販売してのけたという。

 ここは「4日間で100万曲」という数字に驚くべきところなのだが、スティーブ・ジョブズ氏の発言を元に計算すると、日本のほかの音楽サービスでは1カ月でだいたい50万曲を販売しているということになる。筆者は逆に、これまでの日本の音楽ダウンロードサービスでさえ、月に50万曲も売れていたことに驚いた。値段も高く、DRMが不便なサービスであっても、これだけの顧客がいたわけである。

 月に50万曲という数字は、試しにちょっと買ってみた、というレベルを超えている。おそらく日本市場の特性からすると、J-POPのシングルが主流であろうと予測するが、音楽を買う手段として確実にオンライン販売の利便性に人々が気付いたと見ていい。

 今さらと言われるかもしれないが、オンライン販売の利便性とはなにかということをもう一度おさらいしてみると、「検索性」、「即時性」、「値頃感」の3つであると考えられる。平たく言えば、「目的の曲を」、「今すぐ」、「音楽CDよりも安く」入手できるということである。

 特にシングル市場が未だに根強く存在するJ-POP中心の日本においては、このメリットは享受しやすい。そしてこの点こそが、旧来の音楽ダウンロードサービスでも月に50万曲も売れた理由であろう。すなわち厳しいDRMがあっても関係ないような音楽、あるいは聴き方というのは、音楽を消耗品として扱うということにつながる。いわゆるコンビニの便利さと同じなのである。

 例えばコンビニで買うもので、「これは多分一生使うだろう」というものがあるだろうか。そうではないはずだ。コンビニとは生活に必要な消耗品を買うところなのである。音楽がそれだけ日用品となったことは、音楽産業にとっては喜ばしいことだろうが、すでにJ-POPは消耗品であるという事実を裏付ける結果と見るべきであろう。

米iTMSの売れ方の違い

 米国でiTMSのサービスが始まったとき、在米の同年代の友人は「音楽を買うのが止められない」と言っていた。我々の年代というのは、いわゆるヒットチャート世代である。70年代や80年代のLPのライナーを見ると、大抵は全米チャート何位、全英チャート何位といった数字が踊る。

 チャートと密接に関係していたのがラジオで、ラジオでかかればチャートが上がる、チャートが上がればラジオでかかるといった相乗効果で、シングルやアルバムを買わなくても、ヒットソングはいやというほど聴くことができたものである。

 だが昔のヒットソングを今さらCDで買おうと思うと、結構難しい。すでにアルバムが廃盤になっているなんてことはザラで、ヘタすれば大して欲しくもない曲と抱き合わせのコンピレーションや、高いボックスセットを買うことになってしまう。

 そういう世代に、アルバム内の1曲だけでも試聴したのち購入できる米国のiTMSは、ジャストミートしたのである。実はiTMSの登場でもっとも恩恵を受けたのは、いわゆる懐メロ市場なのではないだろうか。先ほど米国のチャートを眺めたら、Journeyの「Don't Stop Believin'」なんて曲が平気で27位にいたりするのである。

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