コラム
» 2005年10月13日 22時01分 UPDATE

西正:近そうで遠い「著作権問題の解決」 (1/2)

地デジのIP再送信についての議論が活発に交わされているが、放送局と通信事業者の間での技術的な検証は進んでも、実際の再送信に至るまでの道のりはまるで狭まった感じがしない。肝心の著作権問題について、何の進展も見られないからだ。

[西正,ITmedia]

政策先行がゆえの空疎

 情報通信審議会の中間答申以降、地デジのIP再送信について、関係する事業者から多くのパブリックコメントが出されるなど、着々と議論が進んでいるように見える。だが、実際には実現に向かって一歩も進んでいない。肝心の著作権問題については、常に「著作権問題が解決すれば」という巻頭詞で済まされたままだからだ。その解決に向けた努力の責任主体が明らかにならないため、制作現場ではIP再送信など「たら」「れば」の議論に過ぎないという声に覆われている。

 2011年のアナロク停波は、行政にとっては必達の政策目標であるのかもしれない。しかし、その実現に向けた過程を見ると、一見して強引に見えるのは許認可事業者に対してだけであり、誰もが最優先課題であると認識しているはずの著作権問題の解決については、相変らず直接の話し合いの場も持たれていない。縦割り行政特有の責任の押し付け合いの域を出た進展は見られないのである。

 いや、それどころではない。再送信以前の問題として、放送局が過去に制作したソフトの単品ベースの二次利用でさえ、話が進んでいない。これは今春、経団連経由の暫定料率の発表により、来年3月まではIPベースでの利用が容易になったかのように言われてきたことだ。

 しかしながら、単品ベースでのネット配信についても、相変わらず供出されるソフトは限られている。単品ベースでのネット配信ならば、放送局にとってはマルチユースに当たるのだから、収入増につながる話。積極的になって然るべきだ。それにもかかわらずソフトが出てこないのには理由がある。

 著作権団体の中でも非常に強力な音事協(社団法人日本音楽事業者協会)が、その暫定料率に了解していないからだ。そのネーミングから勘違いしがちだが、音事協には音楽家に限らす、多くのタレント事務所も所属しており、事実上はタレントの権利を守る団体である。音事協が了解していないのであれば、結局は権利者との個別処理になる。経団連を通じて発表された暫定料率は、結果的にはまるで機能していない。

 タレントがらみの話になるとテレビ番組の制作、マルチユース展開も思いのままにならない。音事協に限らず暫定料率に賛同した著作権団体の中にあっても、肝心のタレント事務所の社長は聞いていないと言うし、タレントのマネージャーなどには全く認識されていないのが現状だ。そうした状況にもかかわらず、暫定料率が決まったことで、今後は単品ベースでのネット配信が活発になるなどと言うのは、誤解もはなはだしいしいと言わざる得ない。

 著作権問題について、どこまでの政策方針が立てられているのかはまるで聞こえてこない。もしそれは文部科学省の問題であるとして相変らず丸投げされているようなら、縦割り行政が引き起こす中途半端かつ実現性が限られたものにならざるを得ない。

 2011年にアナログ波を停止させることが最優先課題であることは分かる。しかし、技術的な検証ばかりが行われても、著作権問題が解決しない限りは、しょせんは議論のための議論で終わってしまいかねない。IP方式による再送信を実現しようという意気込みがあるのなら、行政の担当者が直接、音事協に対して交渉に臨み、三顧の礼をもって解決に向かうべきだろう。

 単品ベースですら、そうした状況にある中で、同時再送信などは思いもよらぬことと受け止めるべきだ。

 「著作権問題が解決すれば」という巻頭詞を付して答申などを出すくらいなら、著作権問題を解決するための議論から入っていくのが筋だ。そうでないと、いくら2011年問題について検討を重ねても、徒労となりかねない。

採算が取れない状況

 放送局はもちろんのこと、大手通信系の一部ISPも、現状のマーケットサイズについて正しく認識しておかねばならない。今の段階では、せっかく著作権者たちとの交渉に成功したとしても、法外なギャランティーを請求されることにしかならないだろう。

 実態としては、ようやくすべての権利処理を行って、ネット配信にこぎ着けたとしても、支払われる著作権料を100とすれば、収入として入ってくるのは1程度にしか過ぎないという。まだまだ日本国民がVODという視聴スタイルに馴染んでいくまでには時間を要しそうだ。

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