コラム
» 2005年12月22日 14時45分 UPDATE

西正:混迷を深めるNHK改革の動き (1/2)

NHK改革に着手しようとする動きがいよいよ始まった。それも、受信料不払い者の拡大が止まらないため、経営形態そのものから見直すべきだということになっている。だが、着想段階とは言え、いくつか示された改革案を見る限りでは、NHK改革というよりも放送業界全般にメスを入れようとしているように思えてならない。余計な思惑が混じれば、事態は混迷を深める一方となるだけだ。

[西正,ITmedia]

次元の異なる「NHK改革」と「放送と通信の融合」

 政府の経済財政諮問会議で2005年12月6日、規制改革・民間開放推進会議の宮内義彦議長(オリックス会長)から、受信料を支払わないとNHKの番組が視聴できなくなるスクランブル化の導入が提案された。この決議は既に、2006年度に結論を出すべく閣議決定がなされている。

 かつての規制緩和小委員会で放送事業における「水平分離」を提案している経緯もあり、元来放送局に対しては含むところのある議案である。その主張によると、受信料制度は「すでに破綻」しており、払った世帯だけが視聴できるスクランブル化を導入すべきとある。しかしながら、NHKの現行のチャンネル数を減らすプランとセットであることは見逃しえない事実だ。

 免許事業であり強力な影響力を持つ放送局への介入は、時を選ばなければうまく行かないことは、過去の経験からみても明らかである。

 NHKの受信料不払い問題が、今になって大きく採り上げられること自体、違和感を禁じ得ない。道路公団や郵政の民営化で規制緩和の成果を訴える政府は、予想通りというべきか、総務相がNHKの経営形態見直しなどを検討する有識者懇談会を2005年中に設置する旨の発表をしている。

 ところが、議論が総務相に手渡されたあたりから、論点がすり替わっていく。これを機に放送と通信の融合が進められるべきだというのである。放送と通信の融合を進めるためには、著作権問題の解決が不可欠になるが、それとNHKの経営形態の議論とは、全く次元の異なる話である。二兎を追って一兎も得られずに終わっても困るのであろうから、いずれも乱暴な解決が図られることになりかねないと危惧される。

 典型的な混乱振りが、ネット配信についての議論に見られる。ネット配信が本格化すれば、地域免許制度を前提とした民放ローカル局の存在価値が危ぶまれるとした上で、それは事業者側の論理であって、消費者の視点が欠けていると指摘している。しかしながら、放送には文化的な側面も強くあり、“消費”される筋合いのものではない。視聴者本位というスタンスは求められても、「消費者」という用語とは無縁なのではないかと筆者には思われる。

 ましてや、個別番組ベースでのネット配信と、IP方式によるリアルタイムの再送信とが混同されていることは明らかである。ただし、いずれも放送局の地域免許制と相容れないものではないし、そもそも地域免許制度を前提として放送免許を乱発したのは他ならぬ旧郵政省の施策であったはずだ。今になって事業者側の論理であるなどと決め付けることは、政府の無責任としか言いようがない。

 ことほど左様に、論点が混同され過ぎているせいか、実のあるNHK改革が実現することは期待しにくいようだ。NHKの経営形態を見直すのであれば、収入の在り方が論じられるべきであり、民放とのすみ分けについての検討が不可欠となってくる。NHKと民放の二元体制が齟齬(そご)を来たしているわけでもない。むしろ公共放送の存在意義とは何か、国営でなく政治権力からの独立性を維持するためにふさわしい収入形態とはどのようなものか、といった根本的な研究がなされずに、いきなり「放送と通信の融合」などを持ち出すようでは、文化的にいかに後進国であるのかを図らずも露見させているようなものだ。

 NHK改革について、政府がどのように対応していくかは、海外諸国も見守っていることを十分に自覚しておくべきであろう。

縮小均衡しか望めない議論

 議論の火付け役となった規制改革・民間開放推進会議の考え方からは、より直接的にNHKを縮小均衡させようとの意図がうかがえてならない。

 NHK改革の議論が受信料の不払い問題に端を発していることに鑑みれば、BS放送にスクランブルをかけることで何の改善が見られるかの脈絡が全く明らかでない。

 受信料不払い拒否・保留件数が05年9月末時点で約126万件に達しており、未契約者なども含めると、受信料を払っていない視聴者が有料契約対象世帯・事業者の3割近くに上るとして、受信料制度が崩壊していると断じている。

 逆に言えば、明確な罰則規定がないのにもかかわらず、自発的に受信料を支払っている世帯・事業者は7割もあるということになる。その7割の世帯・事業者の姿勢を顧みることなく、受信料制度が崩壊していると決め付けるのは、あまりにも結論を急いだ暴論と映る。

 BSのスクランブル化をきっかけに、地上波についても、番組の内容に応じて受信料支払い対象を限定すべきであるとも提案されている。そうして受信料を今より低い水準に落ち着かせようとのことだが、もともと今の受信料不払い問題の原因に「受信料が高いから」という声はあまり聞かれない。料金水準の問題ではないのだとすると、単純に受信料を引き下げることによってもたらされるのは、ラジオも含めた現行のチャンネル数の維持が難しくなることである。

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