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オーディオの楽しみを再び麻倉怜士のデジタル閻魔帳(1/3 ページ)

» 2007年07月02日 08時37分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

 かつては多くの人の趣味として愛されたオーディオだが、発行されている専門誌の数を見ても分かるよう、いつしか愛好家は減っていった。しかし、最近では再びオーディオを趣味として始める人が増えているという。

 呼応するようにハイエンドといわれる製品カテゴリも活況を呈し始めているが、それよりも大きな動きを見せているのが、10万円前後から手が届く「ちょっと高級」な価格帯の製品だ。これは「これまで音が聞こえればいい」と思っていた人が、音楽を積極的に楽しみたいと考え始めたことをハッキリと表している。

photo 麻倉氏と近著「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書)

 デジタルメディア評論家の麻倉怜士氏による月イチ連載『麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」』。今回は大学(津田塾大学)で音楽理論の教べんもとっている麻倉氏に、「趣味としてのオーディオ」の近況と変化、オススメのシステムについて語ってもらった。

――最近では「趣味としてのオーディオ」が再び脚光を浴びているようですが、ご自身でもそうした印象を持たれていますか。

麻倉氏: 確かにそう感じますね。「オーディオ再入門者のための切り口を持った本」ということで私が執筆した「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書)は出版後4日で重版がかかりましたが、これはオーディオを再び“楽しもう”と考える人が増えていることを示す例のひとつと言えるでしょうね。

 以前は時代に適した指南書も多くあり、先達も多くいましたが、趣味として愛好する人数が減って以来、そうした知識を持った人も減ってしまいましたね。

 「音楽への触れ方」が変化しているのも、現在の潮流とは無関係ではないでしょう。私は大学の授業で単純なテストではなく、音楽への感受性を高めてもらうため、音楽を流して、その「感想」をレスポンスシートというかたちで学生に記入させています。これは「音楽の中から何かを感じ取る」能力の訓練になるのです。

 ベートーベンの「運命」ならば、“ハ短調”“アレグロコンブリオ”“三連符”といった音楽的なキーワードを知っていれば、作り手の意図や考えの理解につながり、より音楽を感じ取りやすくなるのです。シートに書いて記入するということで、最初は「キレイな曲」程度しか感想を書けなかった学生も、最近では20行、30行と書いてくるようになりました。

 つまり、音楽を愛する人“ミュージックラバー”になる素質は誰にでもあるのです。ヒットした「のだめカンタービレ」はストーリーと同じぐらい選曲のセンスが素晴らしく、これまで馴染みがなくても、クラシック音楽へ興味を持たせることができることを示しましたよね。

 昔はアンサンブルステレオ、セパレートステレオ、システムコンポとヒエラルキー的に順序立ててオーディオへの理解を深めることができる入門システムが存在し、そうした機材からオーディオへ興味をもった人がアンプやスピーカーを単体でセットアップして楽しむようになっていました。それが当時の入門メソッドでした。CD時代になると音楽はより気軽に楽しめるようになりましたが、逆に深めるのは難しくなりました。デジタル時代の功罪ですね。

――確かに80年代のCDミニコンポ、昨今のデジタルオーディオの流行によって、音楽は気軽に楽しめるようになりました。ですが、なぜここに来て気軽さよりも、趣味の側面を重視した風潮が見られるようになったのでしょう。

麻倉氏: ある一定以上の年代の人に時間と金銭的な余裕ができ、以前親しんだオーディオという趣味へ再トライしようとする動きがその一端にあることは確かです。若い人たちもいまは余裕がなくとも、余裕ができたときにどのような時間の過ごし方をするのか、したいのかを考え始めるようになったことも一因でしょう。経済的に恵まれた人が増えたことに加え、通信販売やネットオークションなどの普及で以前では入手しにくかった機材の入手性が向上したことも要素としては大きいですね。

 そうした背景もあり、もう一度趣味としてのオーディオにチャレンジしたい人と、CD/デジタルミュージックの恩恵で音楽が身近になり、もっとよい音で聞きたいと考える人という2つの層が「趣味としてのオーディオ」をドライブさせているのです。

 家電量販店のビックカメラには私がお勧めするオーディオ製品を紹介するコーナーがあります。展示店舗は現在では7店舗にまで増え、川崎店では月1回のペースでレクチャーイベントも行っています。イベントでお伝えしているのは、電源のプラスマイナスや設置場所でどれだけ音が変わるのかという初歩的な内容ですが、実演してみせると、参加者の反応は驚くほどです。音楽を「楽しもう」と思っている人がどれだけ多いのか実感しますね。

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