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「四方一両損」を目指した議論は何故、ねじれたのか対談:小寺信良×椎名和夫(2)(3/4 ページ)

» 2007年11月07日 09時05分 公開
[津田大介,ITmedia]
photo 津田氏

――まさにそうですね。だから僕は今このコピーナイン問題で不幸だなと思うのは、暫定的な結論として出されている今のコピーナインに対してどう思うかという話をした時、権利者は納得いかない。僕とか小寺さんみたいな一部のユーザーも納得いかない。メーカーだって「EPNがベスト」だとずっと主張していたわけですから納得はしてないでしょう。

 ところが、実際にどれだけ録画するかどうかも分からない消費者団体の人だけが「良い結論だ」とか言ってるわけで。これってずいぶん不毛な状況だなあと(笑)。

小寺氏: そう。同じ大岡裁きでも、「三方一両得」にするのか「三方一両損」にするのか、って全然違うんですよ。

椎名氏: この問題はもともと、権利者、放送事業者、メーカー、消費者の「四方一両損」にするって話だったんですよ。僕らも痛みは背負いますけれど、みんなも背負ってね理屈。

――うーん。でも多分、現実はきれいな「四方一両損」になってないでしょうね。むしろ、四つのうちどこかは五両とか六両とか損しちゃったりしてるかも。

椎名氏: でもねぇ……。この問題の特殊性ってここ2年くらいずっとEPNかコピーワンスかで揉めてたところにあるんですよ。どうにも決着付かないから、僕ら権利者や消費者が中に入っていって何とかしろとか言われて進めたわけで……。みんなそれなりに何とかしようと思っていたんですよ。

 多分消費者側の高橋(伸子)さんもいろいろな問題は分かりつつ、とにかくこの問題に決着を付けなきゃいけないと思ったんだと思いますよ。だから津田さんや小寺さんがこの結論に対して「ダサいよ、それ」と噛みつくのはとても分かるんだけど……だからといって、まぁ何て言うか、そこは本当に愚直に一生懸命やったんですよ(笑)。そのことは分かってもらいたいんだよねぇ。

小寺氏: 要は時期的にそういう議論が長引くことで、現在のコピーワンスという不幸な状況も長く続いてしまう、という認識は皆さんお持ちになってて、できるだけその期間を短縮しようと努力したわけですよね。

椎名氏: コピーワンスはね、僕個人の考えというだけじゃなく、権利者として考えてもムーブが失敗するなんてことはありえないだろうと思います。スジがよくないんですよ。だから、委員会の席上で、ムーブの仕組みはどうなってるんだって聞いてみたら、これがさっぱり要領を得ない。

photo 椎名氏

 通常光メディアにコピーするときにはコンペアなりベリファイなりっていう必ずコマンドがあって、実際にムーブできたかどうか確認して消しますよね。ところがコピーワンスのムーブは、デジタル時代とは思えないようなアナログのコピーをしている時のようなルールで決まっていて、確実に移動できるということが担保されてないんです。「そんなのはおかしいじゃないか」と、そこは僕らも権利者ながらまずそこを発言していったんです。

 そういう細かい事実確認を繰り返す中で、それまでのEPNかコピーワンスかという二者択一の議論にほころびが出てきた。ARIBのTR-B14さえ見直せばその中間的な運用ができるということが分かったときに、実は放送事業者も降りたんですよ。「わかった。その方法があるなら見直しても良い」って言い出したんですね。で、その直後に例の「消費者は無制限コピーを求めてない」という話になって、次々降りてった。誰かさんだけなかなか降りなかったんですけど……それでもまぁポンポン進んでいったわけです。

ダビング10は「最初の一歩」

――それってある意味象徴的な話ですよね。委員会の結論としてはEPNとコピーワンスの中間的な運用ということでコピーナインを決めたけど、それって別に「ど真ん中」の運用ではないですよね。ある面を切り取れば、世代制限があるからコピーワンスと変わらないと考える人もいるし、権利者サイドでは「9回というのは実質コピーフリーと同じだ」ぐらいに考える人もいる。もうちょっといい落としどころはなかったのかなとも思うのですが。

小寺氏: 僕はその中間の落としどころとしてひとつアイデアがあるんです。そもそも権利者のみなさんは、二次著作物であるDVDなどの売上への影響を恐れているわけですよね。で、それはデジタルコピーでクオリティが変わらないということと、時間的なロスが少ないということが脅威だと。

 一方、ユーザー側はもともとタダで放送しているものを、自分で好きなようにコピーして何が悪いんだという感覚がベースにある。CMを見てモノを買ってるじゃないかと。じゃあその落としどころとして、今放送ってほとんどハイビジョンになりつつありますけども、スタンダードディフィニションにダウンコンバートしながらDVDにコピーするのはとりあえずコピーフリーにしようとか、あるいはアナログ出力を録画する分はもうコピーフリーにしよう(※注)とか。そういう落としどころはどうですかね。

 (※注 JEITAは10月9日、デジタル放送の新録画ルールの呼び方を「ダビング10」(ダビングテン)に統一する(リンク先PDF)と発表し、アナログ出力については無制限のコピーが可能になることも同時に発表している)

椎名氏: アナログのコピーについては僕も色々考えはあったんだけど、最終的には、D端子の影響とか決して小さくないということで、村井先生の整理で、その部分は今後検討してゆく仕様の部分ってことになってると思います。

――映画業界の代表として出席している華頂(日本映画製作者連盟の華頂尚隆氏)さんは「1回もコピーは認めたくない。コピーネバーが理想」といろいろな委員会でおっしゃってますけど、それはポジショントークとして仕方がないということは理解できるんです。ただ、現実問題、どこかに基準は合わせなきゃいけないわけで、放送業界、音楽業界、実演家……そういった権利者間の調整って難しいですよね。で、僕らユーザーもじゃあ権利者って言ってもどこに向かって話せばいいのかということもわからない。そういう権利者間の思惑の違いが議論を錯綜させているような気がするんです。

椎名氏: でも、その華頂さんですら、コピーワンスの策定には呼ばれていないわけですから。

小寺氏: でもなんかそういう会議の雰囲気とかノリで、こういう大事な事柄が公式に決まっちゃっていいんですか?

椎名氏: いや、それを僕にいわれても……。

小寺氏: もうちょっと冷静なフェーズはないんですか?

椎名氏: うーん、困ったな(苦笑)。繰り返しになりますが、僕はこれは「初めの一歩」だと思ってるんです。だから、きちんとこの結果を見て、ユーザー側からも総務省に対してフィードバックを返していけばいいんじゃないかな。極論を言えば、消費者から「アナログ停波反対」と言われることが一番恐いわけじゃないですか。

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