野村 続いて手がけたのが、VALUESTAR Nですね。こちらはウーファー付きの2.1chシステムではなく、フルレンジユニットを組み合わせた「FR-Port」技術を採用しています。SR-Bassとは何が違うのでしょう。
石井氏 おかげさまでVALUESTAR Wは、購入者から「いい音だ。満足している」と、とてもいい評価をいただけるようになりました。同時にPCのサウンド性能の追求はユーザーにも期待される項目であると改めて認識しました。次は主力のVALUESTAR Nにもと計画しました。
ただ、液晶一体型デスクトップPCといってもVALUESTAR Nは(VALUESTAR Wもそうだが)ノートPC向けのアーキテクチャを採用し、スリムで軽量なデザイン性に富むフレームスタイルのボディを特長としています。このシリーズにVALUESTAR Wと同じSR-Bassのシステムをインストールするのは少し難しい事情がありました。
野村 ということは、開発もイチから行ったのでしょうか。
石井氏 スペース的にSR-Bassウーファーは難しい。このため、もう一度ヤマハさんと別のプランを考えました。それがフルレンジユニットを内蔵したFR-Portです。これにより音質性能は保ちつつ、省スペース化が実現できました。
ヤマハ エレクトロニクス事業本部技術開発室技術補の新井明氏(以下、新井氏) SR-Bassウーファーは少なくとも150ccのスペースが確保できないと実力を発揮しきれません。
FR-Portは、エンクロージャ(スピーカーボックス)内部の空気バネとバスレフポート内の空気の質量によりヘルムホルツ共鳴を起こす仕組みこそSR-Bass、というか普通のバスレフポート付きスピーカーと同じですが、一般的な円筒型バスレフポートとは異なる、上下はフラット/左右がラッパ状(Radial)な特殊形状のバスレフポートを内蔵し、エンクロージャを薄くしつつ、十分な出力性能を確保できる大きな特長があります。
野村 ヤマハさんに対しては、何か具体的なオーダーはされたのでしょうか。
石井氏 スピーカー性能に関しては全面的に信頼していますので、開発時にこういったものにしたいという製品イメージや基本的なコンセプトなどを話したたけです。
ヤマハ エレクトロニクス事業本部技術開発室主幹技師の野呂正夫氏 具体的には、スペースはたったこれだけしかない。ただ、音質は落としたくない──というオーダーでして(笑)。それを実現するため、結果として新たな技術を開発したことになります。FR-Portは独自のデザインを持つバスレフ構造ですが、バスレフポートのラッパ形状・ホーン曲線はヤマハの技術と長時間の検証の末にたどり着いたものです。
Fr-Portでも、省スペース化と幅広い再生周波数帯域を実現しつつ、NECおよびヤマハが望む音質のクオリティレベルをしっかり確保できたと思います。
野村 FR-Portは、ノートPCのLaVie Lシリーズにも搭載されていますね。
新井氏 はい、技術者としてはこのシリーズがもっとも苦労しました。なによりVALUESTAR Nよりスペースがありませんからね。ノートPCにスピーカー用として用意されたわずかなスペースに入るエンクロージャーにしなければなりません。
石井氏 とはいえ、キーボード上面奥の両脇というノートPCにとっての一等地をスピーカー用スペースとして確保しました。これも、NEC内で“サウンドは重要”というコンセプトがしっかり浸透しているからです。
新井 この部分を確保してくれたのはありがたかったですね。スピーカーが最大限利用者から離れている位置というのも有利ですが、ディスプレイ面が反射板的な役割もになってくれるので、音場の広がり感も自然なイメージに仕上げることができました。
野村 これだけ小さなスピーカーユニットにも関わらず、低域がずいぶんと伸びていますね。
石井氏 そのあたりはかなりチューニングを追い込みました。ノートPCだから、スピーカーサイズが小さいからといって、妥協した(高域しか聴こえない)おもちゃのスピーカーみたいなサウンドでは「sound by YAMAHA」マークを冠する意味がありません。そもそもヤマハさんの認証など得られません(笑)。
新井氏 このサイズなのでとても苦労はしましたが、おかげで中域のロスが少なくなり、聞こえのよい良質なサウンド感を作り上げることができましたね。
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