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「ルンバ」に何が起きたのか?――吸引力5倍、清掃能力50%向上の秘密滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」(2/3 ページ)

» 2014年03月05日 10時00分 公開
[滝田勝紀,ITmedia]

 「空気流路の一番奥に存在するのが『ハイパワーモーターユニット』です。このモーターはインペラーから開発しました。実際に空気が流れて行く流路はルンバが動作中に、突然流れが微妙に変わったり、ずれたりすることがあり、それにより吸引効率のロスが生まれ、ノイズもあがってしまいます。だからそれらロスやノイズを抑制するために、インペラー上のベインと呼ばれる羽根部分に着目。ここを工夫することで、空気の流れを整え、ロスを少なく、騒音レベルも下げました」。

「真空エアフロー構造」は床面と「AeroForce(エアロフォース)エクストラクター」の間、また2本の「AeroForce(エアロフォース)エクストラクター」同士の隙間を狭くすることで、空気が流れる経路を密閉し、強力な空気の流れを作りだす(左)。小型ながらも、緻密に設計されたブレード形状と空気の流路によって、強力でパワフルな吸引気流を作り出す「ハイパワーモーターユニット」(右)

 このほかにも、ベインの数や形状、角度など、さまざまな要素をすべて最適化するため、エンジニアたちは何百パターンものトライ&エラーを繰り返したという。

ダストボックスを大きくできた理由

 

 吸い込み口から上向きの排気まで、真空状態のエアフローでゴミを一気に吸い取っていくルンバ。だが、ゴミが取れるということは、ダストボックスが小さいと、あっという間にいっぱいになってしまう。だが、そこも対策済み。ルンバ800シリーズのダストボックスは既存モデルの1.6倍という容量を確保した。本体サイズは従来機のルンバ700シリーズとほとんど変わらないのに、どうしてそこまでの容量アップをできたのだろうか。

ルンバ800シリーズのダストボックス。既存モデルの1.6倍という容量を確保した

 「大きな理由は、『AeroForce(エアロフォース)エクストラクター』は2本のローラーが非常に近くに置かれたこと。これにより後部に一気に隙間ができ、その部分をそのままダストボックスの拡充に利用できました。ダストボックス内のモーターを端に設置したことで、内側もより見やすく、ゴミも捨てやすくなったと思います。また、HEPAフィルターを従来の2枚から1枚にできたことで、手入れの手間も楽になりました」。

 

 ここまでで、ロボット掃除機の命である吸引システムが非常に進化し、吸引力が5倍になったことは理解できた。一方、今回は、独自の高速応答プロセス「iAdapt」や人工知能「AWARE」は従来機のそれを継承したという。進化した部分はないのだろうか。

 「『iAdapt』や『AWARE』については、目に見えるような大きな進化はありません。それはすでに完成の域に達しているからです。だからといって進化してないわけではなく、動作などはより繊細に、動きの判断なども早くなりました。われわれがロボットを実際に設計する時には、システムデザインのアプローチをとります。つまり、エンドプロセス(ゴール)から逆算してすべてを決めて行くわけですが、非常に有効的なシステムに到達するには、いろんな方法があると思います。例えばセンサーの数を増やすことはできますが、それによりコストも当然あがってしまいます。ここで問題なのは、そのコストに見合ったほど、掃除力に違いが出せるかということ。センサーを増やしても、われわれはそこまで現状と違いがないと判断しました。だから、あえて今回はセンサーの追加などは行いませんでした」。

 なるほど。たしかに、あまり清掃能力が変わらないのに、コストだけ上げられては非常にユーザーにとっては不本意である。そういう意味では「iAdapt」や「AWARE」は“攻めの現状維持”といってもいいだろう。また、ルンバではほかのロボット掃除機のようにエッジクリーニングブラシを両サイドに搭載していないのも同じ理由だという。

エッジクリーニングブラシ。髪の毛が絡むのは仕方ない部分だが、今回はドライバーが手元になくても10円玉などで取り外せるようになった

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