インタビュー
» 2015年04月24日 12時56分 UPDATE

滝田勝紀の「白物家電スゴイ技術」:ルンバの動きは“ランダム”か?――実は“臨機応変”タイプだった (1/3)

ランダムタイプか、マッピングタイプか――最近、ロボット掃除機の動きを2つに分類する風潮もあるが、実はルンバはどちらにも該当しない。危険を素早く回避し、あくまでも掃除という目的を遂行するルンバの人工知能について、国内総代理店の技術担当者に話を聞いた。

[滝田勝紀,ITmedia]

 ランダムタイプか、マッピングタイプか――最近、ロボット掃除機をその動きから2種類に分類する風潮があり、ルンバはランダムタイプの代表格のように扱われることも多い。しかし実際はかなり違う。ルンバはランダムタイプでもマッピングタイプでもなく、しいていえば“臨機応変”タイプ。その理由について、ルンバの日本総代理店セールス・オンデマンドのテクニカルサポート部、曽根泰氏に詳しく教えてもらった。

 まずはこの映像を見てもらいたい。これはルンバの高速応答プロセス「iAdapt」が搭載されているものと非搭載のものを、同じイスの下の環境で動かしたときの動きの違いを表した映像である。

 右のiAdapt搭載のルンバは開始から数秒でイスの脚の周りをくるりと回り始め、スーッと外側に出て行ってしまった。一方、左のiAdapt非搭載のルンバは、ずっと周囲の脚にぶつかっては、別の方向に跳ね返り、さらにぶつかってを長時間繰り返している。はたして、この映像は何を意味するのか?

 「もし、ルンバが皆さんが思っている通り、ランダムタイプのロボット掃除機だったら、左のルンバのように常に脚にぶつかっては、とりあえず反射的に動くだけで、無軌道な動きを続けたまま。その場からなかなか出ることなく、しっかりと部屋全体を掃除機できないはずです。でも、実際のルンバは違います」。

 製品版のルンバは当然、右のルンバのような動きをする。

 「右のルンバの動きを説明しましょう。まずイスの脚にぶつかると、最初は反射的な動きをします。しかしもう一度、別の脚にぶつかった時から、ルンバは気づき始めます。“今、自分は狭いエリアにいるはずだ”と。そこでルンバの動きは瞬時に変わります。狭い空間では、小回りを利かせ始めたり、“このぶつかったものはイスの脚かテーブルの脚かもしれない”と、イスの脚の周囲を周り始めるのです」。

 ルンバにはカメラは搭載されていない。にもかかわらず、なぜルンバはまるで目でみたように空間や障害物の種類を認識できるのだろう。

ts_takitarandam02.jpg セールス・オンデマンドのテクニカルサポート部、曽根泰氏

 「赤外線センサーや超音波センサーなどで、その場の情報をフィードバックするのはもちろん、これまでロボット掃除機の開発データを“経験”として蓄積しているからです。これがもっとも大きいですね。経験といっても、人間の実体験とは違います。iRobotが最初のルンバを発売してから10年以上が経過しています。その期間に得たさまざまな部屋の情報を、あらかじめファームウェアにデータベースとしてもっているので、それを参照しつつ、かつ統計学的計算も合わせて、一般的に部屋にあるものをある程度予測できるのです」。

 たしかに一般的な住居で、ルンバが掃除する部屋にあるもの……例えばダイニングテーブル、ダイニングチェア、ソファー、デスク、AVラック、タンス……など、おおむね存在するものは決まっている。もちろん、人間が使用する前提で作られているため、ある程度はサイズ感も決まっているだろう。たしかに、そういったデータを数多く蓄積しているのはルンバならではだ。

 「ルンバがこのようにスムーズに動くのは、ダイニングチェアの下だけではありません。部屋の隅や壁を認識すれば、必ず右側のサイドブラシを寄せて動きますし、リビングの中央、つまり広い空間ではあらゆる角度から直線的に進みます。両サイドの壁が近かったり、物が散らばっていたり、複雑に入り組んだ袋小路のような場所では小回りを利かせながらも壁を意識した動きになります。ルンバにカメラは搭載されていませんが、カメラを搭載しているどのロボット掃除機よりも、実は空間を正確に把握しています。そしてランダムに動くのではなく、状況に応じて臨機応変に動いているのです」。

人工知能は“集権型”から“分散型”へ

 ルンバの動きがランダムではないことは分かった。しかし、臨機応変といえる動きをルンバはどうやって実現しているのか。曽根氏は、ロボットの人工知能やルンバ独自の高速応答プロセス「iAdapt」との関係について、さらに掘り下げて説明してくれた。

ts_takitarandam07.jpg 最新の「ルンバ800シリーズ」

 まずは人工知能の進化について。1980年代までの人工知能の考え方は、いわゆる集権型と呼ばれるものだった。「集権型というのは、古い人工知能の考え方で、各種センサーで得た情報を一度人工知能に集め、考えてから行動するというものでした。でも、これでは多種多様な情報を同時に入れたり、素早い状況変化に対応できず、タイムロスを起こしたり、バグが発生しやすくなります」。

 これに対し、iRobotの創立者の1人であり、コリン・アングル氏(米iRobotのCEO)がMIT(マサチューセッツ工科大学)時代に師事したロドニー・ブルックス氏は、1986年に“分散型”という新しい人工知能の考え方を提唱した。

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