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技術と人間の関係を再考する機会になったCEATEC麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(1/2 ページ)

» 2015年11月20日 12時18分 公開
[天野透ITmedia]

 毎年秋のイベントシーズンに開催される「CEATEC JAPAN」が今年も幕張で開催され、オーディオビジュアル評論家の麻倉怜士が、例年通り幕張で業界の動向と展望を語った。ここ数年規模が縮小しつつあるCEATECで、今年は白物とAV機器の展望に明暗が出たと語る麻倉氏。「最先端IT・エレクトロニクス総合展」を振り返り、業界のご意見番がこれからを考える。

10月上旬に開催された「CEATEC JAPAN 2015」

――毎年秋は見本市のシーズンで、今年も幕張メッセで開催されましたね。ですが今年は7/8ホールが会場から外れたり、ソニーや東芝がいなかったりなど、以前と比べると寂しくなってしまったという印象を受けました

麻倉氏:CEATECは近年かなり退潮傾向にあり、昨年はソニーが撤退し、今年は日立も東芝も出展を取りやめてしまいました。日本メーカーの情報発信力という点では、以前に比べるとかなり力がなくなっていますね。

 今回のCEATECは、AVよりもむしろ自動ロボット技術やIoT(Internet of Things)などといった、IT由来の技術がどのように実用化されるかという視点がメインになってきているように感じます。

――IFAでも感じましたが、ネットとモノをつなぐIoTという言葉は、世界的な関心事となっているように見えましたね。デジモノと白物の融合という意味では、非常に興味深いテーマです

麻倉氏:家電という世界において情報化はまだまだ進んでおらず、これまでは単体で完結する世界でやってきました。IoTや自動ロボット技術は、家電が元来目指している「人の手を煩わせないで作業をする」という本質に戻っているといえます。

――家電の本質ですか?

麻倉氏:はい。例えばシャープの「ココロプロジェクト」は面白い例ですね。シャープは今、全体的に経営が難しい状態ですが、構造改革によってCE(Consumer Electronics)という傘でまとまりました。東広島の通信事業部、八尾の白物、矢板のAV、これが1つの枠に入ることで、今家電が目指している「ネットワーク化」「IoT化」というところに対して、実効的にモノを作っていく、考えていくというプラットフォームが前進しました。

 CEカンパニーの発足は10月1日だったので、このタイミングでCEATECが行われるということで注目したいアイテムが沢山ありましたね。例えばロボット電話機の「ロボホン」です。電話というアイテムは単機能ですのでハード的な差別化がありません。携帯電話もスマホになってからというもの、OSやアプリの違いといった、ハードではなくソフトが主導権を握るという作り方をしています。

電話の常識を根底から覆すヒューマノイド型電話機シャープの「robohon」(ロボホン)。背面にディスプレイを背負っているが、とても電話機には見えない

――確かに、新製品としてスマホの話題が語られる時には、やれどこそこのチップが使われているだとか、メモリがどれくらいだとかいった、スペックというコモディティ化したテーマが先行してしまっていました。iPhoneのコプロセッサやXPERIAの位相差オートフォーカスといった一部例外を除くと「特別なハードのおかげでこんな事ができるようになった」という話題はあまり見られませんね。

麻倉氏:対してシャープのロボット電話は、完全にハードが主導権を握る作り方です。つまり「このハードとデザイン、形だから電話とコミュニケーションができる」といった、新しい体験を提案しているわけです。そこには生活に対して潤いを与える、従来の「家事労働解消型」とは違った「付加価値型」という進化が見えます。

 今までの電話はみんな同じような機能で、誰もが同じ行動をするもので、いわば機械に行動を強いられていました。そこに自発的な楽しみはありません。これは必要にかられて使うものであって“使いたい”と思わせるものではないのです。それに対してシャープのロボット電話は“能動的に機械を使う、対話する”という事が楽しいですね。この原型はロボット掃除機に対話機能を入れたことです。

――関西弁を話す、あの掃除機ですね。ネット界隈では散々叩かれていましたが、掃除機をペット感覚で扱うロボットにするというコンセプトは非常に面白いと思いました。過去にはファービーやAIBOといったロボットペットが一世を風靡したこともありましたので、発想自体はそれほど間違ってはいないと思います。

麻倉氏:ロボット掃除機というのはいわば「究極の手抜きのための道具」です。単調な動作を一回するのは大したことがなくとも、それを繰り返し行う作業というのは、人間にとってかなりの苦痛です。それを解決する道具が「ルンバ」や「ルーロー」などのロボット掃除機なのです。

 シャープという会社はまさに“目の付けどころがシャープ”ですね。シャープのロボット掃除機は、上手くおだててあげると仕事をしてくれるのですが、気分を害してしまうとコチラの思うことをやってくれません。いうなれば“気難しいお手伝いさん”です。これがとても面白くて、手足の代わりになるものが従来の家電だとすると、シャープのそれは従来の概念とまったく違うものです。つまり“コミュニケーションによって機能を果たす”という価値を発見したわけです。

――なるほど、従来とはまったく違うものを作ることで、新しい価値と市場を創造することにこそ、シャープの関西弁掃除機の価値だというわけですね。かつてソニーがウォークマンを作って音楽を自宅から開放したことや、ドコモがimodeを開発してネットをPCから開放したことと同じレベルの改革を、あの掃除機では試みているという訳ですか。

麻倉氏:こういった新たな価値を電話や冷蔵庫、電子レンジなどに展開していくのが「ココロプロジェクト」です。受け身でしか働いていない家電に対してアクティブに対峙することを目的としています。このようなコミュニケーション型の家電が、これからの時代には伸びるのではないでしょうか。なぜかというと、まずIoTで“モノとの対話”というベースができあがり、クラウドが入ることで従来のスタンドアローン型には出来ない「連携の価値」というものができるわけです。そうなった時、これからの家の中における電気製品のあり方は大きく変わってくるでしょう。そういう意味では未来を見通すCEATECの面白みが確かにあったといえますね。

――機械とのコミュニケーションが家電の価値として提案されるというのは、何だかとても現代的ですね。近代以降は如何にコミュニケーションを取るかというのが社会を動かす大きな力になっていますが、その相手が人間からついに純粋な機械になったというのは、進化とも言うべき非常に大きなインパクトを持っていると思います。

1999年にソニーから発売された「AIBO」は、当時珍しかったペットロボットとして一世を風靡した。アメリカで1998年に発売された「ファービー」と共に、コミュニケーションロボットの先駆け的存在といえる

麻倉氏:新たな価値の創造という観点では、パナソニックの“床に映してサイズを変える”などもありました(ソニーが壁でやっていたが)。やはり従来の延長ではない新しいものが作れるというのが大きいですね。これは液晶に対するOLEDと同じ構図です。

 従来のテレビは画面サイズが固定されているため、フレームの大きさが変わることは物理的にありえません。そのため単一の大きさの中にあらゆるコンテンツを映し出していました。ところがプロジェクション型画面になって大きさが変わると、例えば映画などの情緒型コンテンツは大画面で、ニュースなどの情報型コンテンツは小画面で、といった使い分けができるようになります。使わない時の大画面テレビは“目障りなオブジェ”だと思いませんか?

――真っ黒な四角いパネルというのは、リビングの空感としては確かに異質ですよね

表示するコンテンツによって上下方向にディスプレイサイズが変わる「アンビエントディスプレイ」。初出はIFA 2015

麻倉氏:新デバイスであるOLEDは画用紙のように曲げられるほど薄いので、使わないとは巻き取ってしまうことでテレビの姿を消すこともできます。折りたたんで収納してしまえば、テレビそのものを運ぶことだって可能です。

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