連載
» 2016年01月28日 13時16分 UPDATE

麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」:ソニーが「UHD Premium」に賛同しなかった理由 (1/3)

恒例のCESが今年も開催された。ビジュアル業界はHDRを中心とした話題で「実に実りが多かった」と語るAV評論家の麻倉怜士氏だが、一方でプレミアム製品向けの新しいロゴマーク「Ultra HD Premium」にソニーが賛同していないなど、気になる点もある。その理由を解説してもらおう。

[天野透,ITmedia]

 オーディオ・ビジュアルをはじめとするデジモノ業界の年始恒例行事「CES 2016」が、今年も米国ラスベガスで開催された。毎年、年始早々に渡米する麻倉怜士氏は、「これを見ないと1年が始まらない」と言うが、一方で今年のCESは、もはや一言では語れないまでに肥大化と細分化が進んだという。そんな中、ビジュアル業界はHDRを中心とした話題で「実に実りが多かった」と語る麻倉氏。プレミアム製品向けの新規格「Ultra HD Premium」を分析しながら、業界の今とこれからを語る。

ts_cesenma01.jpg 新年恒例のCESが今年も開幕。場所は世界有数の娯楽都市・ラスベガス

――今年のCESはいかがでしたか?

麻倉氏:毎年明け早々に開催されるCESは、私にとっても恒例行事ですが、今年は今までと比べて少々事情が違い、多くのジャーナリストから「焦点が絞られていない」という声が異口同音に聞かれました。

――CESといえばデジタル技術の最先端が集う見本市ですよね。それもマスプロダクト以前の、開発中のものや研究段階のものが多いため、業界の指針を見通すには欠かせないイベントです。日本では松の内という時期に開催されるということもあり「年始にラスベガスのショーを見て、業界の一年間の流れを占う」といったように、まるでお宮参りのような存在でしたね

麻倉氏:AV業界で見ても、従来ならばBlu-ray Discや2K/4Kといった「少し未来の常識」が発表され、それをフォローするように各ブースで新規格に合わせた技術や製品を展開するという大きな波がありました。そういった規格や技術を牽引してきたのは主に日系のCE(コンシューマー・エレクトリック)メーカーだった訳ですが、今年はシャープと東芝が不在で、日系はソニーとパナソニックが主体です。家電メーカーが引っ張っていくということもなかったように見られました。

 こういった流れを象徴するかのように、主催元の名称がCEA(Consumer Electronics Association)からCTA(Consumer Technology Association)へ変わっています。エレクトロニクス以外の幅広い技術にも門戸を広げており、大きなトレンドよりも細かいものが集まったというのが私の印象ですね。また名称も「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」ではなく、略称の「CES」が正式名称になっています。名称の変遷としては、最初が「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」で、そのうち頭に「インターナショナル」が付き、ここ数年は「CES」となったという具合です。

――「エレクトロニクス」から「テクノロジー」へ、ですか。「最先端はもはや電子技術だけではない」といったメッセージが発信されているように感じます。ということは、電子技術以外の展示も多かったのですか?

麻倉氏:エレクトロニクスに限らず、テクノロジー全般の、広く消費者に関わるものを取り扱っています。主体としては「コンシューマー・テクノロジー」とありますが、それに限ってすらいないというのが実情です。もちろん従来通りのテレビやオーディオといった技術もありますが、今では自動車やVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、ドローンや、サービス関連の先端技術展示もあります。将来はバイオテクノロジーなんかも入ってくるかもしれないですね。一昔前と比較すると、非常にバラエティー豊かになりました。

――よく分からない感じになりそうです

麻倉氏:現状でもそういった雰囲気は表れ始めていて、既にCESの全体像を把握するのが困難になってきているんですよ。来場者を見ても昨年の15万人から今年は17万人に増えました。会場周辺は本当に混雑していて、ホテルもなかなか取れない、道を歩くのも困難という状態で、現状でも限界にきていると感じます。現在、CESの会場はオーディオ系展示が主体のヴェネチアンホテルと本会場のラスベガス・コンベンション・センターという2段構成になっているのですが、この間は通常ならタクシーで5分位程の距離しかありません。ですが会期中は1時間もかかってしまうほど混雑してしまうため、取材活動も“ルート取り”やタイムスケジュール管理など、うまく戦略を立てないと回れなくなっています。

ts_cesenma06.jpg CESは年々大きくなっており、来場者も右肩上がりの状態。本会場のLVCC(ラスベガス・コンベンション・センター)前のバスのりばもご覧の様子

――世界中から集った同業者が“高度な情報戦”を繰り広げているという訳ですか。麻倉さんはご存じないでしょうが、その様は“宝の地図”を片手に有明狭しと動きまわるコミケ参加者と全く同じですよ

 ですが、秋にベルリンで開催されるIFAはそこまでひどい混雑ぶりとは感じません。なぜCESはそんなに混雑するのでしょうか?

麻倉氏:それはやはり展示範囲の問題でしょう。昨年のIFAの時にもお話しましたが、あちらは実利的な商談の場所という性質を強く持っており、また年末商戦の主役となる新製品のお披露目という役割もあるので、あくまで家電が主体です。それに対してCESは未来技術の総合見本市で、展示的に“なんでもある”という状況です。展示の幅が広いということは、必然的に見に来る人も幅広く、多くなるという訳です。

ts_cesenma11.jpg 世界中のあらゆるものを集めた街であるラスベガスに相応しく、CESの展示にもあらゆるものが集まってくる。画像は近年注目を浴びている電気自動車

 また、いくらメッセベルリン(IFAの会場)が広大といっても“まだ”歩いて回れるレベルです。そういったこともあって、CESは会場のサイズ的としてもそろそろ限界かなと思いましたね。

――展示面積を見ても、ラスベガスがおよそ18万平米で、ベルリンの16万平米を上回ります(日本最大である東京ビッグサイトはおよそ8万平米)。CESはこれにヴェネチアンホテルを加えてなお足りないという訳ですから、会場を変えるくらいしか根本的な解決にはなりそうにないですね

麻倉氏:CESの主役がAVではなくなってから久しいですが、先にも述べた通り“焦点が絞られていない”CESにおいて、これからは自分の主役を自分で見つける時代です。今までのように「とりあえずCESに行って何かを見つける」ではなく、「何を見たいか」という主題を予め設定して、それを徹底的に深掘りしていくという方法でないと、何を見れば良いのか分からなくなってしまいます。CESを見るにもテクニックが必要になったという訳ですね。

――「自分で主題を設定する」というあたり、やはりCESがコミケじみてきたと感じます。と同時に、膨大な情報の中から自分の目当てを探し当てるという取材力を試されているようにも感じます

麻倉氏:今は大きな波がなくなったということで、つまり各所がそれぞれ全く違ったことをやっている時代です。そういった各々のベクトルを総称して「コンシューマー・テクノロジー」と称している訳です。多様化した中にベクトルを見出すというのが重要ですね。それに比べるとIFAは「白物」「IT」「通信」「AV」と、まだ分かりやすいといえるでしょう。IFAに自動車はまだ展示していません。マツダが唯一ブースを構えていましたが、CESでは「北ホールまるごと」自動車関連の展示で、この規模を指して一部では「CESの“C”は“Car”ではないか」と言われるほどです。IFAはまだまだそのレベルではありませんね。

 そういった情報の嵐の中で、私は勿論オーディオ・ビジュアルに関連した技術を徹底深掘りした訳ですが、今回のAVは非常に実があったと感じました。昔から同じことを言っていますが、やはり年初のCESへ行かないといけませんね。

ts_cesenma10.jpg GeForceやQuadroといったPC用グラフィックチップでお馴染みのnVIDIAも、自動車エリアで車載用ECUの開発をアピール。隣には米国ビッグスリーの一角を占めるフォード・モーターのブース
ts_cesenma07.jpg そのフォードは「グランツーリスモ」シリーズで一躍有名になった名車「Ford GT」の新型などを大々的に展示。確認しておくがこれはデトロイト・モーターショーではなくCESの風景である

――具体的なお話を聞かせてください

       1|2|3 次のページへ

Copyright© 2016 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.