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次世代放送まであと1年! 活発な動きを見せる8K最前線(前編)麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(1/3 ページ)

» 2017年04月04日 12時54分 公開
[天野透ITmedia]

 日本全体が2020年の東京オリンピックに向けて急速に変化する中、放送業界では4K/8K実用放送が2018年に開始される。今回は、8Kを研究段階から見つめ続けてきたAV評論家の麻倉怜士氏に“胎動する次世代放送”について大いに語っていただこう。

麻倉氏:4Kテレビが市民権を得てきて久しいですが、コンテンツ側のメインとなるテレビにおいても2018年から始まる4K/8K実用放送の免許が11社に交付されるという大きな動きがありました。これまで次世代高精細放送を推進してきたDpa(デジタル放送推進協会)とNexTV-F(次世代放送推進フォーラム)という2団体が、2016年2月に合併してA-PAB(放送サービス高度化推進協会)が発足。先日、このA-PABが主催する4K/8Kコンテンツ検討事業に関する発表会が行われ、12の8Kコンテンツが発表されました。

――映画やUltra HD Blu-rayなどで一般化した感のある4Kという言葉ですが、いよいよテレビにも4K/8Kの波が押し寄せるという訳ですね

麻倉氏:ということで、今月は先端映像の話題を、それも8Kのコンテンツにおける最新事情のお話を、じっくり、たっぷりとしたいと思います

 まずはロードマップのおさらいをしておきましょう。2016年にスタートして現在放送している4K/8Kの試験放送は“BS右旋”と呼ばれる形の電波を使ったものです。2017年に110度CS“左旋”の4K試験放送が開始し、基本的に今の設備がそのまま流用できるBS右旋の4K実用放送が2018年、その後“BS左旋”の4K/8K実用放送、さらに110度CS左旋の4K実用放送と続きます。2014年から始まっている4K実用放送は124/128度CSでそのまま続く予定です。

昨年の技研公開で掲示された次世代放送のロードマップ。改めて表に示されると4K・8Kの時代はもう目の前だと感じる

麻倉氏:BS右旋の4Kですが、使用されるチャンネルは7chおよび17chで、7chがBS朝日、BSジャパン、BS日本。17chがNHK 4K、BS TBS、BSフジといったように、現行のBS 2K放送がそっくりそのまま4Kを行うというイメージになります。7chと17chを新たに設定するということは、帯域確保のために他のチャンネルから帯域の幅寄せをする必要がある訳です。放送開始は2018年12月1日。ただしBS日本だけは1年遅れの2019年12月1日になる予定です。

――右旋、左旋というのは、電界の振動面が右回りか左回りかという意味ですね。端的にいえば、波形信号が右ねじ状のトルネード型になって送られるか、左ねじ状のトルネードになって送られるかというイメージでしょうか。近接した周波数帯域での電波干渉を避け、新たなチャンネル帯域を確保できるメリットがあります

麻倉氏:解説ありがとう。そうやって新設した左旋には4Kと8Kがあり、8chの割り当てはいずれも4KのSCサテライト、QVCサテライト、東北新社。12chの割り当てはWOWOW 4K、14chにはNHK 8Kが入ります。ほとんどが4KでNHKだけが8Kです。放送開始は基本的に2018年12月1日で、QVCサテライトは同年末の12月31日になる予定です。WOWOW 4Kは2020年の12月1日にスタートします。

――つまり、WOWOWやNHK 8Kといった“テレビマニア向け”な放送は基本的に左旋放送へ入るということですね。これはなかなか悩ましい……

麻倉氏:このように次世代放送がいよいよ実用化のステップへ入ってきた訳ですが。さて、肝心の放送コンテンツはどうでしょうか?

 NHKの例を挙げると、8Kコンテンツはこの3年間で、生放送も含めておよそ300近くのタイトルが制作されています。内容としてはアンナ・ネトレプコのコンサートや秋吉敏子のジャズピアノライブ、ブロムシュテット指揮のN響コンサートなどといったライブ番組や、あるいは芸術家・草間彌生の番組や源氏物語絵巻などの特集というスペシャル番組が多いです。

 私が良かったと思ったのは、ルーブル美術館と国際共同制作を行った「ルーブル 永遠の美」ですね。今の試験放送でもやっていますが、これはなかなか力を入れて作ってあります。先日NHKにおける4K/8Kコンテンツの考え方を取材したのですが、その時の話によると4Kコンテンツは2Kとの一体制作をやっていくようです。もちろん4Kのために特別に作ったスペシャル番組も良いのですが、1日24時間ある放送枠を4K専門番組それだけで埋めるというのは、なかなか時間確保が難しいわけです。2Kの一般番組と共同制作を行い、ダウンコンバートして地上波と一緒に放送することで、4K番組の量産を目指すとのことです。

――ローンチ当初に数の問題が出てくるのは致し方ないところです。ある程度時間が経っていろいろな環境が整えば、4K専門番組がほとんどを埋め尽くすという状況になるかもしれませんね。

麻倉氏:将来の内容に関しては未知数ですから、推移を見守ることにしましょう。ではこれまではどうだったかというと、スーパーハイビジョンニュースや情報番組の「サキドリ」、あるいは中継車を使った古典芸能収録やバスケットボールのスポーツ中継などを作ってきています。次世代放送に関してNHKは8Kが中心で、スタジオも8K向けの制作体制を取っていたのですが、いよいよ4Kもやるぞということで今年は4Kスタジオも作り、毎月1本ずつ定時的に一体制作の番組を作っていきます。

 「では、今までやってきた8Kはどうなるの?」と聞きたくなるところですが、NHKの問題提起は「8Kならではのコンテンツとは何か」というものです。4Kでも画質は上々で内容も充実しているため、8Kは一体何に価値を見出すのかが重要になります。しかも8Kは左旋放送なので、アンテナやケーブル、あるいはスイッチャーや分配器に至るまで、設備の総入れ替えが必要です。当然テレビもチューナーも専用のものが必要で、下手をすれば「いっそ家を建て直すか」というレベルになりかねません。しかも、そこまでして最初に観られるのはNHKの1chのみという、なかなか困った状況なわけです。

――一般の感覚からすると「そんな酔狂な奴が居るのか?」というところでしょうが、最高のオーディオのために電柱を建ててしまう物好きが少なからず居るこの国の人達のことですから、家一軒とまでは行かずともシアタールームの総改装くらいはやっちゃうんでしょうねぇ。うらやましい(苦笑)

麻倉氏:たった1チャンネルのために7桁8桁万円の投資を行うわけですから、放送側は「“左旋投資”をあえてしてまでも絶対見たいコンテンツ」が必要となります。NHKの答えは「8Kならでは」にこだわった先進的な番組や、超精細映像による従来の視聴スタイルと異なる映像、あるいは世界の超一流との共同制作、もしくはシアターなどの“ハイエンドコンテンツ”の数々です。

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