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映像技術が切り拓く“まだ見ぬ世界”――麻倉怜士の「miptv2017」リポート2017(後編)(1/5 ページ)

» 2017年05月03日 06時00分 公開
[天野透ITmedia]

 100年を超える“Tele-Vision”(遠見機)の歴史は、常に「新しいものを見たい」「まだ見ぬ世界を目にしたい」という好奇心が前進の原動力だった。それは現代も変わらず、テレビの現場は常に新たな世界を追い求め続けている。麻倉怜士氏のmiptvリポート後編は、そのような好奇心と探究心を技術と発想でカタチにする話題が満載。HDR(ハイダイナミックレンジ)、VR(バーチャルリアリティー)、8Kといった最先端技術と、世界中のテレビマンたちの知恵とアイデアが、発見しつくされた世界に新しい驚きの景色をもたらす。

本誌でもおなじみの本田雅一氏、現地で登壇したテレビ業界ジャーナリストの長谷川朋子氏と一緒にパチリ

麻倉氏:後編はHDRの進化に関するお話から始めましょう。HDRの流れが本格化して2年が経ち、活用シーンも増えてきてHDRならではの表現を見せるというところも出てきました。

 NHKでは今年制作する4Kの28番組は全てHLG(Hybrid Log-Gamma)のHDRで制作とアナウンスをしていました。前編で少し触れた「コズミックフロント」もHDR化するそうで会場ではデモを流しており、例えばロケットの発射シーンではスラスターから噴射されるバーナーに色抜けがなく、高輝度部分でもちゃんと黄色が出てきます。夜明けの場面などの全体が暗い中で一部が明るいというシチュエーションでは、白トビせずちゃんと色が残っていました。科学者にインタビューするシーンでは、顔色の微細な部分がHDRならではのパーソナリティ表現になります。中でも星空の瞬きはHDR効果が特に顕著で、光がとても立ってきますね。

――漆黒の宇宙に瞬く恒星や、ロケットの打ち上げなど、宇宙モノはハイコントラストが活きるジャンルですね。ノンフィクションの宇宙モノが4K HDRを歓迎するというのも分かります

宇宙を題材にした番組「コズミックフロント」は、NHKのコンテンツの中でも特に4KやHDRと相性がいい

麻倉氏:そういうわけで、世界各国の放送局や制作会社がHDRにトライしており、今回の日本代表はNHKと「世界遺産」で有名なTBS VISIONでした。こちらは「フェルメールとレンブラント」という特別番組で、いよいよ初HDR化です。撮影はSDRですが、RAWで撮っていたためグレーディングでHDR化することができました。デモ映像のロケはアムステルダム国立美術館です。

――ここも昔行ったことがあります。正面入口に「I am steldam」という大きなモニュメントがあって、公演を挟んで反対側には“奇跡の響き”を誇る「コンセルトヘボウ」(オランダの有名なコンサートホール)というロケーションです。コレクションはやはりレンブラントの「夜警」がハイライトでした

麻倉氏:そのレンブラントの代表作「夜警」の間でのワンシーンが本編でも印象的です。そもそも「夜警」という絵自体が暗い街を練り歩く市警団という主題なので、暗い中で局所的に明るいわけです。これはHDRでこそ生きる被写体で、レンブラントの筆致や光の捉え方がよく分かります。

――レンブラントもフェルメールも、日本では“光の魔術師”という異名で知られていますね。17世紀のフランドル画派は総じて光の演出を大きな特徴としていますが、中でもこの2人は「真珠の耳飾り」や「解剖学講義」など、暗い背景に光で主題を浮かび上がらせるという手法を得意としていています。絵画そのものが映像演出的、もっと言うと「極めて4K HDR的」で、そんなフランドルの絵が僕は昔から好きでした。

「I am steldam」のモニュメントが印象的なアムステルダム国立美術館(IMG_0369.JPG)と、代表コレクションのひとつのレンブラント作「夜警」
デン・ハーグのマウリツハイス王立美術館。コレクションは「真珠の耳飾り」があまりに有名。美術館自体若干薄暗いが、それ以上に“暗い背景と不釣り合いなほど明るい主題”というフランドル画派の絵はHDRが映える

麻倉氏:次に取り上げるのはイタリア国営放送RAIの4Kニュース「Back to Iraq」です。ニュースを4Kで作るというのはNHKもやっていますが、4Kの持つ描写力はニュース映像にとって1つの切り口になります。これは後でお話するVRにもいえることで、360°映像で場の雰囲気が分かるのも特徴です。RAIの場合はフレーミング映像の中で精細さを追求することで、ニュースの本質やリアリティー、環境の情報といった場の雰囲気などを届けています。

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