筆者は基本的には、プロのファンドマネジャーとは「他人のお金を運用する人」だと思うので、「自分のお金も運用する人」を正しいプロとは認めたくない。ある外国人ファンドマネージャーは「ファンドで先に買って、ファンドで先に売る、ということならいいではないか」と筆者に言っていたが、「もし自分が自動車を買うために持ち株を売りたい場合は、ファンドの持ち株を売るのか? 個人資産の影響がファンドに及ばないという言い逃れには無理がある」と反論したことがある。
しかし証券マンにせよ、ファンドマネジャーにせよ、基本的には相場が好きだし、普通の人よりもお金が好きな人が多い(お金に熱心になれることは金融マンの重要な資質の1つだ)。親戚や友人の口座を借りて、株式投資をしている金融マンは、ゼロではないはずだ。自分のお金を預けて株式を売買してもらっているとなるとルール的にも問題だが、友人に売買をアドバイスして儲かった場合にお礼をもらっている、というような微妙なケースを含めると(厳密には「アウト」だと思う)、かなりの数の金融マンが個人的な運用に関わっているのではないか。
もっとも金融マンが金融ビジネスのプロであるからといって、自分の株式投資で普通の人よりも儲けられるかというと、どうもそうではないようだ。過去20年くらいの相場展開の影響もあるだろうが、「実は……」という打ち明け話にあっては、損をした話の方が多い。
ところで話のついでに言っておきたいのだが、新聞・放送などのマスコミ関係者は社内ルールで株式投資を禁じられている場合が多いのだが、証券会社のように社内で社員をチェックするシステムがないせいもあるのだろうが、個人で投資に手を染めている社員がかなりいる。メディア関係社員のインサイダー取引が事件化して報道されることがあるから、気付いてはいるだろうが、経営者はもっと危機感を持った方がいいと思う。経済や投資を扱うテレビ番組のスタッフ(プロデューサークラスまで)の投資話などを聞くと、「これは危ない!」(会社として)と思うケースがままある。
米国ではアナリストのレポートの終わりに、証券会社が所有する株式銘柄の外に、「当アナリストは○○と××と△△の普通株式を保有している」といった注記が見られることがある。自分の持っているもの、利害を明らかにして、情報を発信するならそれでいいではないか、という考え方なのだろう。情報の受け手側にも成熟が必要だが、こういう整理の仕方もあるのかもしれない。ただ筆者は、自分の持ち株と発信する情報の間で“利益相反”を完全に取り除くことはできないと思うし、そうまでして個人資産で投資したいとは思わない。
筆者の世代では、金融マン、特に運用の関係者は、個人投資に意識的に距離を置く人が多かった。証券会社の友人によると、最近の若手証券マンの中には、社内ルールに則ってだが、自分で投資をする社員が昔よりも多いという。金融マンの個人投資に対する意識も変わりつつあるのかもしれない。
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