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水を注げば半導体が小さくなる?

» 2004年04月08日 16時01分 公開
[IDG Japan]
IDG

 米ロチェスター工科大学(RIT)の研究チームは、現行世代の半導体製造装置の限界を打ち破り、さらに小型なチップの製造を可能にするための新技術を研究している。この新手法の鍵となる要素は、地球上で最も手に入れやすい物質の1つ、「水」だ。

 RIT大学院の副学部長でマイクロエレクトロニクス工学を専門とするブルース・スミス教授によれば、回路のパターンを描写する際にシリコンウエハーに少量の水を流すことで、水の屈折力により、現行世代のリソグラフィ装置で45ナノメートルレベルの回路まで製造できるようになるという。

 リソグラフィ装置は、半導体ウエハーに回路パターンを転写する際に用いるもの。波長193ナノメートルの光線を用いる現行世代のリソグラフィ装置は、IntelのPrescott Pentium 4プロセッサやIBMのPowerPC 970FXプロセッサなどの90ナノメートルチップの製造に使用されている。

 スミス教授によれば、顕微鏡では100年以上も前から、標本の解像度を上げるために液体の屈折力が使われている。屈折力とは光を屈折させる特性のこと。

 同教授の説明によると、生物学の実験室ではこうした目的で以前から油性の液体が用いられており、多くの研究者たちは液浸リソグラフィの実用化にも何らかの液体を活用できると考えていたという。大きなイメージを縮めるという意味では、リソグラフィは基本的には顕微鏡検査のちょうど逆だ。ただし、半導体製造環境では清潔さが必要となるため、多くの液体が考慮から外されたと同教授は説明している。

 だがその後、水が理想的な液体であることが分かった。なぜなら、水には半導体製造によく使われる原料や液体との間で反作用がなく、また水の屈折力は現行の製造プロセスのエッチング装置で使われているのと同じ波長で最高点に達するからだという。

 大半の半導体研究者は、65ナノメートルプロセス以下の次世代のチップ製造技術にはより小さな波長の装置が必要だと考えていたという。業界は新しいリソグラフィ装置に移行するたびに、時間のかかる大掛かりなプロセスを経て、新装置が既存の材料とうまく合うかどうか、起こり得る問題をすべて解決できるかどうかを確認する必要がある。

 Intelフェロー兼リソグラフィ資本設備担当責任者のピーター・シルバーマン氏は、半導体メーカーは今後、水を一定量で供給できる新しい装置のほか、水でシリコンウエハーを汚さないための精製システムに投資しなければならないと指摘している。ただし、レーザーと光学機器については同世代のものを利用できるという。

 またIBMの先端イメージング部門担当マネジャーのマイケル・ラーセル氏によれば、製造プロセスにおける欠陥を排除する必要があるなど、まだ問題は幾つか残っている。だが現時点では、液浸リソグラフィに関するデータが十分にそろっていないため、この技術を研究室から実際の製造設備へと移行させるために何をすべきかといったことをまだ把握できないのだという。

 シルバーマン氏とラーセル氏によれば、IntelとIBMはNikon Precision、キヤノン、ASML Lithography Holdingなどのベンダーが年内にリリースを予定している液浸リソグラフィ研究装置を待っているという。両社は2005年上半期には、液浸リソグラフィの実験を行ない、同技術を今後の製造計画に組み込めるか、組み込めるとしたらどのような方法になるかといった問題を判断できるようになる見通しだ。

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