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「安くてメモリいっぱい」のPCに危機?

» 2004年04月21日 15時05分 公開
[IDG Japan]
IDG

 DRAM価格の上昇は、大容量メモリが搭載された安いコンピュータを探しているユーザーにはありがたくないニュースかもしれない。

 ここ3カ月のメモリ価格の反発に、PCメーカーの間では不安をわき起こっている。価格上昇が続けば、ローエンドPCに搭載されるメモリが削減される可能性もあると業界観測筋は語っている。メモリ価格があまりに高くなれば、PCメーカーは一部システムの搭載メモリを減らすか、PCを値上げするかの選択を迫られるだろう。メモリが削減されれば、ユーザーはPCのメモリを増やすのに余分にお金を払わなくてはならなくなる。

 メモリ価格を調査しているICIS-LORの市場アナリストによると、4月20日の時点で、アジア市場の266MHz DDR DRAMの256Mバイトモジュールのスポット価格は39.50米ドル前後。同じモジュールが1月1日にはおよそ28.25ドル、4月1日にはおよそ25ドルでスポット市場で売られていた。

 SDRAMや333MHz DDRなどほかのメモリのスポット価格も、この期間に大きく上昇している。大口需要家向けのコントラクト価格も上昇しているが、スポット価格ほど急激な変化ではない。

 世界最大のDRAMメーカーである韓国のSamsung Electronicsでは、顧客がメモリの値上がりに「不安を抱いている」と同社の半導体部門副社長キム・イル・ウン氏は16日のアナリスト向け電話会見で語った。

 DRAM価格の上昇は、メーカーがPCに搭載するメモリを増やしている今のトレンドを減速させる恐れがあるとキム氏。

 同氏によると、Samsungの上位顧客10社が1〜3月期にPCに搭載したDRAMは1台当たり平均440Mバイトと、前四半期から15%増えたという。

 キム氏は、256MバイトDDRモジュールの価格が42ドルを超えたら、PCメーカーは1台当たりのメモリ搭載量を減らすかもしれないと推測しつつも、SamsungはPCメーカーにとっての限界点が正確にどこなのか確信しているわけではないと認めた。

 「当社は価格設定の点で、システム1台当たりのメモリ搭載量の限界点がどこになるのか調査しようとしている」(同氏)

 4〜6月期に関して、企業のPC需要、DDR2メモリへの需要が堅調なため、メモリ需要は引き続き高いとキム氏は予測している。しかしDDR2チップの歩留まりが低く、またより高度な製造プロセスに移行しているメーカーが問題にぶつかっていることから、供給の逼迫は続く見通しだという。

 DRAMチップ・モジュールのスポット価格の急騰は、PCメーカーの間にパニックを引き起こしているとiSuppliのアナリストは語る。

 「PCメーカーとスポット市場のバイヤーはDRAM高騰にショックを受け、混乱し、パニック状態に陥っている」とiSuppliの主席アナリスト、ナム・ヒュン・キム氏は先週のリサーチノートで述べている。

 「値上がりがあまりに激しくなれば、今年後半のDRAM売上が低下する可能性もある。PCメーカーはコスト上昇に対応するため、システムに搭載するメモリの平均量を切り下げるかもしれない」(ナム氏)

 Intelも、メモリ価格の上昇に注意を向けている。

 「メモリが全般的に値上がりしているという不満の声が多数聞かれる。当社は実のところ、まだそれを調べようとしているところだ」とIntelの副社長兼デスクトッププラットフォーム部門ジェネラルマネジャー、ルイス・バーンズ氏は先週台北で語っていた。

 「大きな問題だとは考えていないが、かなり注目している」とバーンズ氏。

 Gartnerの主席アナリスト、アンドリュー・ノーウッド氏は、メモリ業界の循環的な性質を挙げ、メモリ価格の上昇は大問題ではないと語る。DRAMメーカーは長期にわたる低迷を切り抜け、今は回復の途上にあり、それがメモリの値上がりに反映されているのだ、とも。

 さらに同氏は、PCメーカーがPCの値上げを避けるために、DRAM搭載量を減らす可能性に直面するのは今回が初めてではないと指摘。

 ノーウッド氏によると、PCメーカーのビジネスモデルは、部品価格が低下することを前提にしている。部品価格が下がれば、PCメーカーはPCの性能を高めると同時に、価格を据え置くか引き下げることができる。しかしDRAM市場では時折、今のように値上がりが起き、このトレンドに逆行すると同氏は語り、PCメーカーはこの数年、メモリ価格の低下によって恩恵を受けてきたと指摘する。

 「過去2年に販売されたPCはすべて、およそ30ドル分のDRAMをタダで搭載していた」と同氏は語り、多くのメモリメーカーは過去数年間、製造コストぎりぎりかそれ以下の価格でDRAMチップを販売せざるを得なかったと説明する。「PCメーカーはこの2年、本当に良い境遇にあった。彼らがタダ乗りをやめる時が来たのだ」

 PCメーカーは上昇するメモリ価格を注意深く観察しており、価格上昇圧力が若干弱まった可能性を示す兆候も見られている。

 ICIS-LORは先週、メモリ市場の動向について「エンドユーザーはここ数週間で、当座をしのぐのに十分な部品を手にしているようだ。彼らは当面、傍観する立場に回るだろうと言われている」とコメントした。同社は20日、アジアのスポット市場について、DRAM価格は依然堅調で再び価格が上昇する兆候が見られ、DRAM販売業者は地域のメモリ供給が逼迫しているため価格の下落はなさそうだと示唆していると述べた。

 一部では価格が安定しているか、あるいはここ数週間の高値を下回っており、次の展開がどうなるかが大きな疑問となっている。

 「今後の価格トレンドについては、スポットバイヤーとシステムメーカーが今の高い価格でDRAMの購入を増やすか、あるいは値下がりを待つかが大きな疑問だ」とiSuppliのナム氏は語り、現在のスポット価格は「過熱」しており、来月には下がり始めるはすだと付け加えた。

 しかし、メモリの値上がりが小休止したとしても、短期間で終わるかもしれない。iSuppliは、メモリ需要は生産キャパシティの増加を上回っており、今年後半にはDRAM不足が起きると予測している。

 IDCも、今年後半にメモリの供給不足が起きると予測している。同社は2月のレポートで、ベンダー各社は収入源を多様化して利益を高めるため、DRAM以外のメモリに製造キャパシティを移行させており、10〜12月期には4〜5%の供給不足が起きると予測。だが同社はその一方で、PCメーカーがコンピュータに搭載するメモリの平均量を減らすことはないとの見方も示した。

 IDCによると、デスクトップコンピュータ1台当たりに搭載されるメモリの平均量は、1〜3月期は438MバイトとSamsungの概算(440Mバイト)に近い値となっており、4〜6月期には472Mバイトにまで増える見込み。7〜9月期は500Mバイト、10〜12月期は528Mバイトに拡大すると同社は予測している。

 しかし、メモリ価格が高い水準にとどまれば、PC 1台当たりのメモリ搭載量の増加ペースが落ちる可能性があると、IDCの半導体調査プログラムディレクターで、2月のレポートを執筆したキム・スギョン氏は指摘する。

 同氏は今後について、5月にメモリ価格は若干下落し、8〜9月に再び上昇すると予測している。今の価格上昇は、需要というよりも供給関連の問題に起因するものであり、メモリメーカーは向こう数週間のうちに、需要に合わせて生産量を調整するよう求めるPCメーカーの声を聞き入れるだろうと同氏は述べている。

 同氏は、PCメーカーはPCのメモリ構成の調整が必要になるまで、もう数カ月持ちこたえられると話す。メモリ価格が7〜9月期の間も下がらなければ、PCメーカーは特にローエンド製品に関して、多少の変更を強いられるだろうとも。

 「価格が今のまま高止まりすれば、PCメーカーは低価格PCラインのメモリ構成を調整するかもしれない」(同氏)

 それでもPCメーカーがローエンドPCの搭載メモリを大幅に減らすことはないだろうし、そうなってもDRAM搭載量は程なくしてまた増えるだろうとGartnerのノーウッド氏は語っている。

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