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中国、WLANでは譲歩も半導体関税では一歩も譲らず

» 2004年04月23日 18時10分 公開
[IDG Japan]
IDG

 無線LAN(WLAN)機器に国産の標準を適用するという中国の計画をめぐる騒動は4月21日、ワシントンD.C.で開かれた貿易問題に関する二国間協議の結果、静かに終わりを迎えた(4月22日の記事参照)。しかしこの交渉の成果は、幾つかの分野で懸念を表明していた米国側にとって完全勝利には程遠いものだ。

 WAPI(WLAN Authentication and Privacy Infrastructure)の導入を無期限に延期するという中国の発表は、これに反対した米国企業の勝利として広くもてはやされている。しかし中国側は、同国内で半導体を製造する一部企業への付加価値税(VAT)の払い戻しをめぐる論議では、一切妥協を示さなかった。

 中国外での半導体製造に適用されないVATの払い戻しこそ、両国間で長らく続く貿易論争の中心だ。米国通商代表部によれば、米企業は2003年に約20億ドル相当の半導体を中国に輸出した。中国の税制によって、こうした半導体の買い入れには3億4400万ドルの税金が課せられたという。

 市場分析会社BDA Chinaのマネージングディレクター、ダンカン・クラーク氏は、「中国はWAPIよりも、VATから多くの利益を得られる」と指摘。同氏によると、中国政府は半導体製造産業の発展を戦略的に優先させている。

 半導体VATをめぐる二国間協議は、来週もスイスのジュネーブで行われると米国通商代表部のロバート・ゼーリック氏。

 半導体VATに関する合意には至らなかったが、中国は6月1日以降、同国で売られるすべてのWLAN機器に国内で開発したセキュリティプロトコル、WAPIのサポートを義務付ける計画を無期限延期することに同意。WAPIは電気電子技術者協会(IEEE)が開発した無線ネットワーキング標準802.11で使われるセキュリティプロトコルと互換性がない。

 中国のWLAN標準が導入されていたら、802.11標準に基づくWLAN機器の販売は、中国では6月1日以降禁止されていただろう。国外のベンダーがWAPIのライセンスを受けるには、中国の指定企業20社以上のうち1社と共同製造契約を結び、その際に義務付けられる条項に従って、自らの技術を中国企業と共有する必要があった。

 WAPI導入計画を延期したほか、中国担当者は今回の協議で、知的財産の海賊行為に対する取り締まりを強化することに合意。また携帯電話向けの3G(第3世代)標準の採用に際して、中立的な技術をサポートする姿勢を示した。

 WAPI延期の動きは、まったく予想できなかったわけではない。中国のアナリストは、政府はベンダーに対するWAPIサポートの義務付けを撤回する道を模索するだろうと何カ月も前から予測していた。

 「意外ではない。WAPIはいつか守りきれなくなる政策だった」とクラーク氏。

 また、WAPIをライセンス供与する権限を与えられていた企業のうちの1社、中国最大のPCメーカーLenovo Group(聯想、旧Legend)は、Intelの次世代Centrinoプラットフォーム「Sonoma」を基盤にするノートPC「Vela」のプロトタイプを開発し、中国のWLAN標準問題がどちらに転んでもいいように備えていた。

 Lenovoは、国産のWLAN標準を導入するという中国の計画を公に支持しながら、政府が802.11ベースのWLAN機器の販売を許可する決断を下した場合に備え、ひそかにVelaプロトタイプの製造を検討していた。同社情報筋は21日の貿易交渉前にこの情報をほのめかしている。

 WAPI導入の義務付けを無期限延期するという決定を、米国の企業やアナリストは歓迎している。

 WAPIに関する中国の決定は「IT産業でリーダーシップを発揮する責任感を示す」ものだとIntel広報担当者のチャック・ムロイ氏は語る。Intelは3月にWAPIをサポートする意向はないと表明していた。

 Meta Groupのアナリスト、クリス・コズプ氏は「米国だけでなく、世界各地の消費者にとって朗報だ」と話す。複数の標準が存在していたら、スケールメリットの効果は薄れ、WLAN機器の価格が下がるペースは遅くなっていただろうと同氏。

 中国によるWAPI導入延期の発表がもたらした当面の影響としては、同国でWLAN機器の売上が伸びるだろうとネットワーク侵入検知システムベンダーの英Red-M Communicationsのカール・フィーダーCEO(最高経営責任者)は語る。

 フィーダー氏によると、WAPI導入をめぐる先行きの不透明さから、多くの中国ユーザーがWLAN機器の購入を控えてきた。Red-Mの中国での売上もここ数カ月は「ほんのわずか」に低下していたという。Red-Mの見たところ、WAPI導入の延期により、中国の潜在顧客の間で既に関心は高まっているという。

 しかし、中国政府が6月1日以降ベンダーにWAPIサポートを義務付けず、802.11ベースのWLAN機器の輸入を禁止しなくとも、WAPIが完全に消え去ることはなさそうだと同氏。Red-Mは中国のパートナー企業との共同製造契約を通してWAPIのライセンスを受けており、WAPI採用製品の開発を続ける考えだ。

 フィーダー氏はこの先の展望として、WAPIもしくはその派生技術に対する需要が、中国で政府などの特定の垂直市場で発生すると見込んでいる。国外の暗号技術への疑念は、セキュリティに特に重点を置いている分野でWAPIや派正技術への需要を生むだろうとフィーダー氏は話している。

 BDA Chinaのクラーク氏は、こうした市場は仮に生まれたとしても、WLAN機器市場全体と比べれば非常に小さいだろうと指摘する。クラーク氏はWAPIにあまり将来性を感じておらず、中国のエンドユーザーは可能であれば国際標準に基づく製品を買う方を望むだろうと述べている。

 「悪しき標準は死なず、ただ消え去るのみ」(同氏)

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