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» 2004年05月18日 16時06分 UPDATE

「絶対に解読不可能な」量子暗号でEchelonに挑むEU

EUは4年かけて解読不可能な暗号鍵を作成・配布する技術の開発を目指す。関係者はこのプロジェクトを米国主導の諜報システム「Echelon」に対抗するものだとし、「欧州の経済的独立」につながるとしている。(IDG)

[IDG Japan]
IDG

 欧州連合(EU)は量子暗号を基盤としたセキュアな通信システムの開発に向けて、向こう4年間で1100万ユーロ(1300万ドル)を投じる。極小スケールの物理界をつかさどる法則を使って、解読不可能な暗号鍵を作成・配布しようという計画だ。このプロジェクトのコーディネーターが5月17日、明らかにした。

 このプロジェクトが成功すれば、暗号開発者の究極の目標である「絶対に解読不可能なコード」が生成され、Echelonなどのスパイシステムによる盗聴の取り組みを回避できることになる。Echelonは、米国、英国、カナダ、ニュージーランド、オーストラリアの諜報機関のために、電子的なメッセージを傍受するシステムだ。

 Milan Polytechnicのエレクトロニクス学部教授で、このプロジェクトのコーディネーターでもあるセルジオ・コバ氏は、「このプロジェクトの目的は、Echelonも含め、何者にも傍受できない通信システムを作り出すことだ。われわれが計画しているのは、かなりの技術革新を必要とするシステムだ。われわれはそれが機能することを証明しなければならないが、現段階ではまだそれは実現できていない」と語っている。また同氏は、このシステムの商用化を実現するには、地理的な到達範囲とデータ転送速度の大幅な改良が必要だと話している。

 オーストリアのARC Seibersdorf Researchの量子技術担当責任者で、このプロジェクトの総合コーディネーターでもあるクリスチャン・モニク氏は、「Echelonに関する欧州議会の報告書は、電子的な盗聴の解決策として量子暗号技術を用いるよう奨励している。これは、Echelonに対処するための取り組みだ」と語っている。同氏によれば、これまで産業スパイは欧州企業に深刻な影響をもたらしている。「われわれはこのプロジェクトにより、欧州の経済的独立に不可欠な貢献を果たせるはずだ」と同氏は語っている。

 量子暗号はバイナリメッセージの作成と転送に、光子と呼ばれる光粒子の物理的な特性を活用する。科学者のチャールズ・H・ベネット氏とジル・ブラッサード氏が1984年に初めて考案したシステムを用いれば、光子が空間を移動する際の振動の角度(偏光角)を「1」か「0」かの表示に使うことができる。プロジェクトのコーディネーターによれば、光子を傍受しようという試みは偏光によって干渉されるため、システム運営者はそうした不正行為を探知できるという利点がある。傍受された暗号鍵はそこで放棄され、代わりに新しい鍵が作成される。

 モニク氏によれば、SECOQC(Secure Communication based on Quantum Cryptography)と呼ばれるこの新システムは、実際のデータの交換ではなく、暗号鍵のセキュアな生成と交換に用いられる。

 「暗号化されたデータは通常の方法で転送される」とモニク氏。量子メカニズムを使って暗号化されたメッセージは現在、光ファイバーを介して数十キロの距離を伝送できる。欧州連合のプロジェクトでは、量子物理をそのほかの技術と組み合わせることで、この到達範囲の拡張を目指す。「このプロジェクトで重要なのは量子暗号だけでなく、実用化の達成に必要なそのほかのあらゆるコンポーネントとの組み合わせを利用する点だ。われわれは非常に広範なアプローチで量子暗号に取り組んでいる。ほかの国々にはない動きだ」と同氏は説明している。

 モニク氏によれば、このプロジェクトには、オーストリア、ベルギー、英国、カナダ、チェコ、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、ロシア、スウェーデン、スイスから、大学、研究機関、民間企業の量子物理学者や暗号化、ソフト、ネットワーク開発の専門家らが参加する。

 プロジェクトコーディネーターによれば、参加者は最初の1年半で多数のソリューションの進捗状況を評価し、開発を進めるに値する最も有望な技術を決定する。モニク氏によれば、SECOQCは4年後には機能できる状態を目指しているが、商用化の実現にはおそらくさらに3〜4年は必要となる見通し。

 コバ氏はもっと慎重だ。「言うなれば、今はまだライト兄弟の最初の飛行の段階だ。現時点で超音速の大西洋横断飛行について語るのは時期尚早だ」と同氏。

 コバ氏によればこのプロジェクトは、光子の到着を高速で記録できるセンサーや、一度に1つの光子を生成する光子ジェネレータの開発といった技術的な問題に直面している。「2〜3個の光子を同時にリリースしたのでは、傍受に弱くなってしまう」と同氏。

 一方、モニク氏は、いったん実用的なソリューションが開発されれば、数百万人規模のグローバルな市場が誕生すると考えている。テロリストや犯罪者が完全にセキュアな通信ネットワークを活用することのないよう、このシステムを利用できるユーザーの制限については政治的な判断が必要になると同氏は語っている。

 「私としては、このシステムの利用を政府高官や軍隊だけに制限すべきではなく、セキュアな通信を本当に必要としているすべてのユーザーに利用させるべきだと考えている」とモニク氏。銀行、保険会社、法律事務所が顧客になる可能性があるという。そして特別な事情の下で警察当局に鍵を利用させるべきか否か、そしてそのやり方について判断が下される必要がある。「われわれの成果を利用する相手を選ぶのは、われわれの役割ではない」とMilan Polytechnicのコバ氏は語っている。

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