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クリック1つで隣人の支持政党が分かる――政治献金情報サイトが巻き起こす議論

» 2004年08月11日 14時21分 公開
[IDG Japan]
IDG

 「私の住所をすぐにあなたのWebサイトから消しなさい。さもないと弁護士を呼びますよ」――政治献金を追跡し、献金者に関する情報を共有するWebサイト「Fundrace」は最近、こんな電子メールを受け取った。

 このサイトの訪問者のほとんどは、近所の人々の政治的な傾向や献金額が分かる「隣人検索」機能を使っていると同サイトたちの作者は話す。彼らは、Eyebeamというニューヨークのハイテク集団のメンバー。

 Fundraceでは、姓と名による検索もできる。例えば(コメディアンの)「ジェリー・サインフェルド」と入力すると、その献金額や職業、さらには住所までも表示される。同サイトは2004年大統領選の候補者への献金(政党と個々の候補者への献金を含む)を追跡している。

データマイニングは容易

 これらの検索結果を提供するために、Fundraceは米連邦選挙管理委員会(FEC)と国勢調査局のサイトで一般に公開されているデータをマイニングしている。法律上、選挙活動においては200ドル以上の献金をこれらの機関に報告しなければならない。

 FECのデータを理解するのは簡単だと、Eyebeamのマイケル・フルーミン氏は言う。同氏はジョーナ・ペレッティ氏とともにこのサイトを立案した。

 「この情報(あの住所にこの人がいるという)を取得して、国勢調査局の別のデータベースを使ってそれぞれに地域コードを付け、献金者の正確な緯度と経度を特定するという点に工夫がある」とフルーミン氏。

 しかし、人気の高いFundraceサイトでジェリー・サインフェルドの自宅住所を明かすのは倫理、さらには法律にかなったことなのだろうか? 同サイトは一線を越えていないのだろうか?

 もちろん、献金者情報は公記録だ。FECは自身のサイトで住所情報も公開していると話しているが、それを掘り出すにはかなりの作業が必要だ。Fundrace.orgほど簡単に取り出せないのは確実だ。

 Bush/Cheney '04の広報官テリー・ホルト氏は、献金者の住所を明かしているということを知るまで、Fundraceのコンセプトを認めていた。

 「これには問題がある。FECは献金者の氏名を要求しているが、このサイトは窃視的要素を加えている。これはオープン性と透明性の精神で行われていない」(ホルト氏)

 それでも、Fundraceから自分の名前を削除するよう求めるメールを送った人が弁護士を呼んだとしても、告訴できないことがすぐに分かるだろう。

プライバシーか知る権利か

 こうした献金データ、さらには住所データの公開は完全に合法だし、究極的には公共の利益にかなっていると政治献金の監視団体Center for Responsive Politics(CRP)のラリー・ノーブル氏。

 CRPのWebサイトでは、FECのサイトやFundraceと同じような政治献金データを掲載しているが、住所は削除されていると同氏は説明する。

 「選挙資金が論点となる限り、こうしたプライバシーの議論は続いてきた。とにかく大事なのは、プライバシーの権利と公共の知る権利のバランスを取ることだ」(ノーブル氏)

 この問題は、Federal Campaign Act(連邦選挙法)をめぐる1976年のバックリー対バレージョ訴訟で最高裁にまで持ち込まれた。最高裁は、政治献金情報を公表されたことが基で迷惑を被る可能性があると実証できない限り、公共の知る権利はプライバシーの権利に優先するとの判決を下した。

 「日光は最高の消毒剤であり、電気の光は最高の警察官である」とルイス・ブランディーズ判事は多数派の意見書から有名な言葉を引用している。

 一部の団体は、献金データが開示された結果、「迷惑」を被ったと法の場で証明しようとしてきた。社会主義労働党と共産党は、献金者の氏名報告を義務付けられていない。献金者が政治的傾向を「暴露」されて迷惑を被ったとの主張が裁判所で認められたからだ。

 世間からはFundraceに対して「思いつく限りのあらゆる意見が寄せられている」とフルーミン氏は語り、脅しのメールや感謝の言葉をまくしたてるメールを幾つか引き合いに出した。

 「われわれは公の情報を実際に公開している。選挙資金はブッシュ大統領の警護官や特権階級、裕福なニューイングランドの住人だけでなく、どこでも、どのレベルでも関係のある話題だ」(同氏)

Fundraceの動機

 先の大統領選のときも電子メールとWebサイトは利用できたが、政治キャンペーンにおけるインターネットの役割は拡大してきている。

 今年はすべての候補者がWebサイトを設置し、ほとんどのキャンペーンがオンラインマーケティング戦略を考えている。従来型のメディアと併せてオンライン広告・マーケティングを模索しているところもある。

 では、こうした仮想空間でのキャンペーンへの貢献度を考えると、Eyebeamのメンバーは愛国主義者あるいはいたずら者のどちらだろうか?

 Eyebeamのミッションステートメントには「われわれは電子メールの転送、風刺サイト、都市伝説から、情報時代にアイデアがどのように広がっていくかを研究している」とある。同団体の題材は、今はたまたま政治的なイベントだが、その動機は明らかに別のところにある。

 フルーミン氏とペレッティ氏は、人種的ステレオタイプを笑いの種にするパロディサイトBlackpeopleloveus.comも運営している。

 このサイトと同じように、Fundraceは多くの人からの反響を呼んでいる。Fundraceのアクセス数は「1日に100万を超える」とフルーミン氏は言う。

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