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自宅PCから世界の天文データを解析――バーチャル天文台構想

» 2004年09月13日 14時35分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 世界中の天文台のデータを、自宅のPCから活用できるようにする――国立天文台データベース推進室は、バーチャル天文台「Japanese Virtual Observatory」(JVO)の開発に取り組んでいる。このほど日本SGIが国立天文台(東京・三鷹)で開いたセミナー「HPC Open Forum」に登場した、天文学者たちのさまざまな取り組みを紹介しよう。

 バーチャル天文台は、世界じゅうに散らばった望遠鏡の観測データを取り出して解析し、結果を送信してくれるシステム。ネットワークにつながったPCがあれば利用でき、専用の計算設備を備えるため、研究者が個々に計算設備を用意する必要もない。

 「望遠鏡が蓄積するデータは膨大。すばる望遠鏡(ハワイにある国立天文台の大型光学赤外線望遠鏡)1台だけでも、1年間に20T(テラ)バイトのデータを蓄積している。また、望遠鏡によって観測波長やデータ形式、必要な解析ソフトも違う。天文研究を効率化するためには、世界中の天文台から必要なデータを簡単に取り出せ、波長や形式にかかわらず処理できるシステムが不可欠」と、水本好彦・国立天文台天文学データ解析計算センター長・教授は言う。

 膨大な天文データ解析を家庭のPCからでも行えるようにし、研究目的だけでなく、教育やアマチュア天文家の活動にも手軽に利用してもらえるシステムを目指す。また、世界各地で進んでいるバーチャル天文台プロジェクトとの相互運用も視野に入れている。

 構築に向けて技術的な問題はほぼクリアしているというが、「文化の差による壁が高い」(水本教授)。天文台ごとにデータ管理体系やデータ形式が違うほか、データを無償提供することに難色を示す天文台もあるなど、解決すべき課題は多いという。

日本のロボット技術を惑星探査に

 「惑星探査といえば米航空宇宙局(NASA)が有名だが、日本だってがんばっている」(久保田孝・宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部宇宙探査工学研究系助教授)。

 惑星探査ロボといえば、NASAの火星探査車「スピリット」「オポチュニティー」のような、車輪駆動で走り回るイメージが強い。しかし、昨年5月に打ち上げられ、来年夏に小惑星「Itokawa」(国産ロケットの父・糸川英夫博士にちなんで名付けられた)に到達予定の国産小惑星探査機「はやぶさ」(MUSES-C)に搭載された日本初の惑星探査ロボット「ミネルバ」は車輪がない。

ミネルバのCGイメージ。重さ600グラムのボディに、カメラやセンサー、モーターを積んでいる

 はやぶさがターゲットとしている小惑星は直径数キロと、小惑星としてはそう大きくはなく、重力は地球の1万分の1−10万分の1程度と「ほぼ無重力」(久保田助教授)。車輪タイプの探査機だと、小さな障害物に当たるだけで浮いてしまう。ミネルバは地表をキックし、ホップしながら移動することでこれを回避。内蔵したカメラやセンサーで着地した場所の画像を撮影したり、温度などを測定して記録する。

開発中の惑星探査ロボット

 「惑星探査は、日本のロボット技術を生かせる分野」(久保田助教授)。ミネルバだけでなく、車輪タイプの月探査ロボット「Micro5」など、さまざまな惑星探査ロボットが国内で開発されている。

立体視できるプラネタリウム構築へ

 地球上から宇宙の果てまで、ダイナミックな立体映像で楽しめるプラネタリウムが、数年後に登場するかもしれない。

 国立天文台を中心に開発している「4次元デジタル宇宙シアター」。3面鏡型のスクリーンに、2台×3セットの偏光プロジェクターで3Dの宇宙を投影。偏光眼鏡で立体視する。シアターは国立天文台内にあり、2カ月に1回ほどのペースで一般公開も行っている。

 「3次元映像+時間1次元の4次元で宇宙を体感することで、研究者に新しい視点を提供できる。ビジュアルに訴えるので分かりやすく、教育効果も高い」(科学技術振興事業団の林満・計算科学技術研究員)。

 今後は、映像をネット配信し、家庭のプロジェクターや裸眼立体視対応PCで視聴できるようにするなど、一般家庭で楽しんでもらえるようにする予定。また、球体のプロジェクターに投影できる立体視画像を開発し、立体視できるプラネタリウムの構築を目指す。

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