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自治体IT調達の課題

» 2005年02月14日 17時01分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)は、地方自治体が適正な価格でITシステムを調達する方策を考えるシンポジウムをこのほど都内で開いた。一部で先進的な調達改革が行われているものの、多くの自治体は手探り状態。IT調達の効率化は税金活用の効率化でもあり、つまり納税者の問題でもある。シンポジウムでは、システムに詳しい人材の確保や、制度面の見直しが必要との意見が出た。

 GLOCOM講師の石橋啓一郎主任研究員によると、自治体のITシステムは現状、一般競争入札で調達するのが原則。自治体が仕様書を作成し、それに合ったシステムと見積もり額を各ベンダーが提案し、最も条件がいいベンダーを選ぶ仕組みだ。

 しかし大手ベンダーが採算度外視の低価格で落札するケースが1999年〜2000年にかけて続出。ほとんどの場合、落札の実績を作った上でノウハウを得て次回以降有利に落札できるようにするのが目的だ。

 安値落札は中小ベンダーの締め出しにつながる上、落札後に随意契約で関連システムを受注することで採算のつじつまを合わせる場合も多く、トータルコストは結局高くつくといった問題も指摘されてきた。

 調達改革に最初に着手したのは政府だ。2001年から調達方法を見直し、2003年には各府省にCIO(情報統括責任者)を設置したり、Enterprise Architecture(業務・システム最適化計画)を導入するといった改革を進めてきた。

 地方自治体の一部でも先進的な改革が見られる。高知県では「IT調達ガイドブック」を作成して調達担当部署をサポートしている。長崎県はシステム設計を自前で行うことで、地元の中小企業が受注しやすいよう小分けにして発注できるようになり、中小企業の受注が増えているという。岐阜県は、システム構築・運用を2001年度分から7年間分一括アウトソーシングしたことで注目された。情報システム開発に加え、地域情報化政策のコンサルティングも含めた包括的な内容だ。

自治体の人・制度・意識の課題

 しかし、こうした自治体はごく一部。全国に広げるにはまだ課題が多い。

 一番の問題は人材不足だ。しっかりした仕様書を書いたり、提案書を理解できる人材は少なく、ベンダーの言いなりになって過大なシステムを受注しがちだ。市町村では人を割く余裕もなく、IT担当部門が総務や企画など、自治体ごとにまちまちという状況もある。シンポジウムでは、調達担当者にIT研修をさせたり、民間でITシステムにかかわってきた人を職員として採用する、第三者にコンサルティングしてもらう、といった案が出た。

 制度面の問題もある。コストを下げるため複数年契約を行いたくても、自治体予算は単年度が基本で、複数年契約には議会の承認が必要。また、担当者がシステムに習熟する前に異動してしまう自治体もある一方で、同じ担当者が情報システム部門に長くとどまっている間に出世コースから外れてしまい、インセンティブが高まらない自治体もある。予算や人事の制度も含めた改革が必要との意見が出た。

 だが制度を改革しても、現場の意識が変わらなければ効果がない。政府は制度改革をいち早く行い、複数年契約や中小企業からの受注などがしやすい体制を作ったが、導入初年度、複数年契約をしたのは2省庁にとどまり、中小企業からの調達は0件だった。

 新制度の浸透を後押しする何らかのインセンティブが必要との声もある。内閣府政策参与を務める岸本周平・国際大学GLOCOM客員教授は、「システムを予算よりも安く調達できた場合、割引額の一部を担当者の給与として還元する」「優秀な調達例を発表し、評価する場を作る」──といったアイデアを提案した。

 IT調達の目的や取り組みが地方によってバラバラで、効率的な調達の評価手法が定まっていない点も問題になる。丸田一・国際大学GLOCOM教授は「先進事例の発表の場を作り、簡単で分かりやすい評価基準を定めることで、成果の高い手法を学び合う必要がある」とした。

理想的な調達法は

 理想的な調達のありかたについても議論が交わされた。富士通総研の前川徹主任研究員は、「全システムで仕様書を作成して1から作るのは非効率。自治体で共通の業務については、共通パッケージを開発して仕様書作成の手間や費用を省くべき」と提案する。

 岸本客員教授は「最も理想的なのは、信頼関係に裏打ちされた随意契約」と話し、自治体の担当者がベンダーと同じレベルにまで知識を向上させた上で、信頼できるベンダーを選んで対等な立場で話し合いながらシステムを発注するのが理想だと話した。

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