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» 2005年03月18日 00時58分 UPDATE

萌えに真実がある――「萌え萌えジャパン」取材秘話 (1/2)

「萌えという曖昧な感情について研究すべく、キャラクターエンターテインメントの最先端を探る」Webコンテンツ、「萌え萌えジャパン」が書籍化される。萌えの現場を取材して歩いた堀田純司さんは、「萌えにこそ、日本が培ってきたキャラクター表現の真実があるのではないか」と真剣に語る。

[岡田有花,ITmedia]

 「ただメイドカフェに行きたかっただけじゃないか、と言われても否定できないのですが……」――講談社「Web現代」のコンテンツ「萌え萌えジャパン」が生まれたのは、そんな不純な動機からだった。

 萌え萌えジャパンは、「萌えという曖昧な感情を切り口にして、キャラクターエンターテインメントの最先端を探る」ことを目的とした「衝撃の巨弾ノンフィクション」。昨年4月から1年弱にわたって連載され、スタート1週間で数十万のトータルページビューを記録するなど大きな反響を呼んだ。3月31日に書籍化される。

yu_moe_01.jpg 四六判ハードカバー、全320ページで、税込み1680円。「各回に丁寧な注釈つき。オタク知識の少ない人でも安心の構成」(Webサイトより)

 メイドカフェから声優イベント、コミケなど、“萌えの現場”をくまなく歩いて現場をルポ。抱き枕の考案者や等身大フィギュアのファン、アイドルの小倉優子さん、漫画家の赤松健さん、声優の清水愛さんらファンからつくり手までにインタビューし、萌えの世界を探っている。

 書籍化を前に、企画から執筆まで手がけたフリーライターの堀田純司さんに、取材の感想や萌えへの思いを聞いた。

 「90年代後半、日本経済の元気がなくなったころ日本人は、海外の有名映画祭で受賞し、ハリウッドでも注目されている自国のアニメーションを発見しました。でもアニメの魅力の根源は、そうした評価にあるのか?」――堀田さんは意外なほどまじめなトーンで話し始めた。「『おにいちゃーん』な方向を誰かがやらないと、バランスが取れないと考えました」――“仕事でメイドカフェに行きたい”だけではない想いが、企画の根底を流れる。「萌えに真実があるのではないか、そう思って」。

 フリーのライター兼編集者として、漫画誌の編集に携わってきた堀田さん。担当は青年誌で、萌え系漫画にはあまり縁がなかった。だが漫画の世界の“オタクエリート”達と接するうちに萌えに興味を抱き、研究してみたいと考えた。

 萌え萌えジャパンで取り上げたのは「メイドカフェ」「抱き枕」「等身大フィギュア」「アイドル」「美少女ゲーム」「声優」。好きなキャラをプリントした抱き枕を作り、本来存在しないはずのキャラクターの“触感”を体験しようとする人や、等身大フィギュアとしてキャラクターを日常に具現化させようとする人など、「キャラクターを楽しむ行為の“極北”を取り上げることから取材を始めました」。コアな“萌え”を観察することで、萌えとは何か、見つめなおそうとした。

 堀田さんは振り返る。萌えの世界は、想像以上に深く、複雑で、豊かだったと。

yu_moe_02.jpg 「ノンフィクション作品として書いたけれど、そうは扱われないでしょうね」と堀田さん

萌えは「脳内補完」

 堀田さんによると、萌えは「情報量の脳内補完」だ。「線で描かれたキャラクターは、実際の人間よりもはるかに情報量が少ない。萌えは、そのキャラクターの足りない部分を想像力で補う行為」。堀田さんが取材で出会った“萌える人々”の想像力は、予想以上だった。

 「お気に入りのキャラクターの性格や生い立ちを自由に想像するのは当たり前。作品にオリジナルキャラを登場させ、背景の物語まで作ってしまいます。絵を描ける人ならそれを同人誌化しますが、絵が描けない人でも、描ける人にキャラのイメージを伝え、きちんとお金を払って絵にしてもらう人もいます」。堀田さんは、萌えが生み出す創造性と、それを形にするオタクの行動力に衝撃を受けた。

 声優イベントの取材でも、想像力が作り出す複雑な世界に驚かされた。「イベントにもよりますが、声優さんは、自身が演じるキャラ名で登場し、ファンはそれに対して現実の声優さんの名前で声援を送ります。その空間では現実と虚構が交錯しているわけで、こんな複雑な楽しみかたを生み出した日本人はすごい」。

yu_moe_03.jpg 声優と写真を撮る堀田さん

 アイドル萌えも同様だ。自らをキャラクター化し、「コリン星から来た」と自称している小倉優子さんを例に挙げ「ファンは、そうした空想を受け入れてみせることこそ『オタク道』などと、漢(おとこ)気をみせるのです」。

 すべてを描き込んでしまうのではなく、お客さんの想像力にゆだねるファンが想像する余地を残すことがキャラクター表現だと堀田さんは考える。「エヴァンゲリオンはその最たるものでしょう」。

 「“萌え”には『対話も感情もない』と語る人もいます。しかし”萌えの世界”はとても想像力が豊か。キャラクターを楽しむためには“イマジネーションの力”が必要ですが、こうした能力はとても大切だと思います。積極的に人とコミュニケーションを行い、情報を取り入れなければ、流行の激しい萌えの世界ではあっという間に取り残されます」。「萌え萌えジャパン」には、いまだ偏見の著しい、空想のキャラクターに対するファン活動のイメージを少しでも変えたいという願いがこもっている。

萌えの国際化

 萌え萌えジャパンを始めたもう一つの動機は、情報の脳内補完で作品の楽しむという“日本文化”が海外に広がりつつあると肌で感じたためだ。「アメリカのオタクも、日本のオタクと同様にコスプレなどを楽しんでいます。漫画雑誌の編集部にイタリアに住む読者から投稿が来たこともあります」。攻殻機動隊が「マトリックス」に影響を与えたなどという“美しい”国際化現象の背後で、じわりじわりとオタク文化も国境を越えつつある。

 「台湾、韓国、アメリカ、イタリア、フランスはオタク先進国。日本とこの5カ国で“オタクOECD”が作れると指摘する人もいます」。例えば、アメリカでは今「るろうに剣心」が人気。アメリカに行った際、LAのアニメショップの店長に「剣心のグッズが欲しい」と言われたというが、日本でのグッズ販売はほとんど終了している。「剣心の版権を下ろしてもらって、グッズを作って輸出すれば儲かりそう。って下ろしてもらえるわけはないですが」。堀田さんはいたずらっぽく笑う。

「オタク三原則」とは

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