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「IT業界は故法王に学べ」――ゴルバチョフ氏が提言

» 2005年04月13日 10時14分 公開
[IDG Japan]
IDG

 IT業界はローマ法王故ヨハネ・パウロ2世に習い、テクノロジーが人々を貧困から救済し、資源と労働を節約し、よりよい方法で世界を発展させる鍵になることを理解する立場に立てる――元ソビエト連邦書記長のミハイル・ゴルバチョフ氏が語った。

 お金を儲け、競争に勝つことだけがテクノロジーを進化させる目的ではないはずだと、ゴルバチョフ氏はボストンで開催されたMassachusetts Software Councilの会合の基調講演で語った。同氏は「富める者には貧しき者を助ける義務がある」というヨハネ・パウロ2世の見解を掲げ、IT業界および米国の主導者に対し、ロシアを含む他国との関係を発展させ、他国のITが進出してきて激しい競争を仕掛けてくるとの懸念を捨てるよう呼びかけた。

 「利益を最大にすることばかりではなく、将来に向けた恩恵、未来の世代について考えよう」と同氏は通訳を通じて語った。同氏の45分間の講演は、ユーモアとさまざまな引用に彩られた。同氏は自身とロナルド・レーガン元米大統領との関係、ウラジミール・プーチン現ロシア大統領の政策、駆け出しの自由市場経済に向けた「カウボーイ」的アプローチによって結局「中断」された自身のペレストロイカ政策について語った。

 ゴルバチョフ氏は1990年にノーベル平和賞を受賞し、その後Gorbachev Foundation(International Foundation for Socio-Economic and Political Studiesとも呼ばれる)の会長になった。その1年後の1993年には環境団体Green Cross Internationalを設立した。

 同氏は冷戦終結時にソ連の書記長を務め、その政策は最終的に共産党支配の終了とソ連解体につながった。同氏はこれらの変化に伴う市民の不安や混乱に触れつつも、ロシアは民主主義と市民の自由に向け、そして経済活動においても大きく前進していると語った。

 米国とロシアは近年、以前よりも友好的な関係を築いているが、米国は依然としてロシアと冷戦時代の軍国主義的哲学とのつながりにいくらかの懸念を持っているとゴルバチョフ氏は言う。また米国の産業界と政府はロシアが自分たちよりも劣っていると考える傾向にあり、これが不公平な関係につながっている、とも。同氏は講演を通して、両国の政府およびITセクターを含む企業各社のパートナーシップを提唱した。

 「こうした時代遅れの(軍国主義的な冷戦時代の)哲学に別れを告げ、一致協力する方法を考えるべきだ」と同氏。ただし、米国はロシアとその企業が対等な立場に立てるようにしなくてはならない。

 「ロシアは従属的パートナーの地位を受け入れないだろう。パートナーシップは対等でなければ」(ゴルバチョフ氏)

 そうしたパートナーシップは、ヨハネ・パウロ2世がカトリック教会のトップとして呼びかけていた「安全で公正で民主的な世界秩序」を育成するだろうと同氏は語った。「(現状の)世界的な混乱は、誰にとっても良いことではない」

 テロや世界的な危機に軍事力で対抗すれば、さらなる分裂を引き起こすだけであり、貧富の格差が広がることにつながると同氏は述べ、この広がる格差がテロの拡大を助長しているのだと指摘した。

 ITはこの格差を埋め、「より安全で公正で、人道的な新しい世界秩序」を作る手助けができるし、そうするべきだと同氏。

 ロシアのITセクターは、自らの役目を果たすべく取り組んでいるとゴルバチョフ氏は語り、同国のソフト業界団体RUSSOFTの働きと、同国がインドを手本とし、アウトソーシングセンターとして発展していることを挙げた。サンクトペテルブルクとモスクワではテクノロジーパークが構築されており、ロシア共和国はIT産業育成に向け協調的に取り組んでいるという。もっと大きなスケールで、同氏は、共通の目標に向けて政府と企業が協力する「統一欧州」を支持した。

 米国関係者の中には、こうした考えは強力なライバルを生む可能性があるため、好ましく思わない人もいると同氏は指摘した。「私は、競争はあるべきだし、必要だと思う。競争がなかったら、何のメリットがあるのか」と同氏は話し、聴衆から笑いと喝采を引き出した。世界および企業の指導者は、その代わりに世界にプラスの影響をもたらすパートナーシップを形成するチャンスをつかむべきだという。

 「このチャンスを逃してはだめだ」とゴルバチョフ氏は呼びかけた。

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