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» 2005年11月22日 16時56分 UPDATE

人が幸せになるITを――オリンパスの「インスパイア型ユビキタス」

「ユビキタス社会」は人を幸せにするだろうか――「インスパイア型ユビキタスシステム」の出発点はそんな問題意識だった。

[岡田有花,ITmedia]

 ユビキタス社会が到来すれば、生活は便利になるかもしれない。しかしそれで、人は本当に幸せになれるだろうか――オリンパス未来研究所で生まれたそんな問題意識が「インスパイア型ユビキタスシステム」の出発点だった。

photo インスパイア型ユビキタスシステムは、全身に装着したセンサーで状況を読み取り、眼鏡に装着したHMDの画面にユーザーが今必要としている情報を表示する

 いつでもどこでも欲しい情報を取り出せる便利な世の中を目指し、「ユビキタス」の名を冠した研究がさまざまな分野で進んでいる。ITで人間の行動をうまくサポートすれば、生活は楽に、便利になるかもしれない。

 しかし過度な便利さは、かえってマイナスになる危険性もある。「『ITぼけ』や『若年性健忘症』といった、ITのマイナス面が報じられ始めています」と同研究所アルゴリズムデザイナーの龍田成示さんは話し、便利さと同時に問題点もふくらんでいくだろうと懸念する。

 同研究所は、ただ利便性を追求するのではなく、ITを使って人に「気づき」を与えることで、自ら決定・行動し、人生をより良くしてもらえるシステムの開発を目指している。

 「気づき」とは例えば、ショーウィンドウに映った自分の姿だという。何気なく道を歩いている時、偶然ショーウィンドウに映った自分を見て姿勢の悪さを知り、あわてて背筋を伸ばす――そんな風に、自らより良く変わろうという気を起こさせるような情報をユーザーに与えるのが、インスパイア型ユビキタスシステムの役割だ。

 例えば、階段とエスカレーターが目の前にある時に、健康状態やこれまでの運動情報を「気付き情報」として表示。体の状態を知った上で、階段を昇るべきかエスカレーターにするべきか考えてもらう、といったサービスを想定する。

センサーとHMDで人を「インスパイア」

 第1段階として試作したシステムは、全身のセンサーが検知した情報をもとに、ユーザーが次に何をしたいのか予測。次の行動をサポートする情報を、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)でユーザーに提示する。

 システムは7つの機器で構成されている。超小型HMD「モバイル Eye-Trek」と、手の振りや足裏の圧力分布から、走っているか歩いているかといった運動状態を判定する「腕運動計測装置」「足圧計測シューズ」、音声などから発話や飲食を判定するセンサー、超音波で天井の有無や高さを検出するセンサー、ユーザーの現在地を知るためのGPS、PCと情報処理ソフト――だ。

photo HMD「モバイル Eye-Trek」は新開発した。わずか3.2ミリ幅の超小型光学バーに240×320ピクセルの画面を表示。50センチ先に3.8インチの画面があるように見える。光学バーはさらに小型化できるという
photo 発話・咀嚼センサーは耳に装備
photo 腕運動計測装置は歩く、走る、スポーツなど10パターンの動きを読み取る
photo 天井の高さを測るセンサーは胸ポケットに
photo GPSは腰に装着
photo 靴の裏地に足圧センサーを搭載。歩く、走る、座るなど10パターンの動きを検知する
photo 各センサーの状態をPCで一覧表示

 情報処理ソフトにあらかじめ「何時からどこで仕事」などとスケジュールを入力しておき、足圧計測シューズをはけば、ソフトが「これから出かける」と判断。PCに接続したHMDに道順や駅の時刻表、外の天気などを表示する。駅構内に入ると、天井センサーとGPSが感知。目的地の切符の料金を表示する――といった調子で、必要なタイミングで必要な情報を提示してくれる。

photo 駅に到着すると、左上のような画面がHMDに表示される

 発話・飲食センサーにより、何時ごろにどれくらい話したか、食事を採ったかといったことも分かるほか、腕運動計測装置と足裏センサーの情報を統合し、どれくらい歩いたり走ったり座ったりしたかも分かるため、健康管理にも役立つ。

 システムはまだ未完成で、現状では、センサーの測定結果と情報をあらかじめひも付けてある。例えば、靴をはけば自動的に駅までの道順が表示され、駅構内に入れば、設定済みの料金の切符を買うよう画面表示する――といった具合だ。センサーの測定結果からユーザーの行動を正確に予測し、必要な情報を取り出すのが難しいという。

10年先の“幸せ”を

 試作システムは、生活を便利にするという色合いが強く、本来の目的である、人に気づき情報を与え、前向きな行動を起こさせる構造にはなっていない。

 「まずは分かりやすいモデルを作って、パートナーを募集するところから始めたかった」と龍田さんはその背景を説明する。同社は、センサー技術や光学技術は得意分野。しかし、ユーザーが置かれた状況や心理状態を予測し、適切な「気づき情報」を与えるソフトの構築などは同社だけでは難しい。

 同社は、こういった分野を補完してくれるパートナーを募っている。すでに東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻の保坂寛教授が開発に参加。ソフトを共同開発したほか、腕運動計測装置や足裏圧力計測装置を提供してもらった。今後も幅広い分野で、ビジョンを共有してくれる研究者と協力したい考えだ。

 「21世紀は、ユビキタス技術そのものの研究だけでなく、技術をどう使うかが重要になってくる。原子力が発電にも原爆にも使えるように、技術をどういう方向に役立てるかを考える時に来ている」――同研究所テーマコーディネーターの井場陽一さんはこう指摘する。

 5年、10年先の未来の生活者の価値を考えようと設立された未来創造研究所は、ITを活用した“10年先の幸せ”を、インスパイア型ユビキタスシステムで支援していきたい考えだ。

photo 左から龍田さん、井場さんと、研究員の杉原良平さん。システムは3人で開発している

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