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はてなが目指す「世界標準」(1/2 ページ)

» 2006年05月02日 16時11分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 トラックバックが世界標準になったことが、悔しかった。

 「考えていたことは実は一緒。どっちが劣っていたとか、どっちが早いとかは、なかった」

 個人のWebサイト同士を、ゆるやかなリンクでつなぎたい――トラックバックも、はてなダイアリーのキーワードリンクシステムも、基本の考え方は同じだったと、はてなの近藤淳也社長は言う。しかし前者は世界標準になり、後者は日本ローカルにとどまった。

 この差は何だったのか。性質や使いやすさの違いもあったかもしれないが、それだけではない。

 「トラックバックを開発した米SixApartのベン・トロットさんは、仕様書が書けてPerlコミュニティーに発言できた。標準化への努力、能力がぜんぜん違った」。勝敗を分けたのは、発想や技術ではなく、標準化のノウハウ。そう感じた。

 埋められない差ではないと、近藤社長は信じている。「次こそ、こちらからイニシアティブを取りたい」。社員たった19人のベンチャー企業はてなは、渋谷のはずれの小さなオフィスで世界標準に取り組む。

画像 昨年より少し広くなったはてなのオフィス

 世界標準にこだわるのは、自分たちが「いい」と信じて作ったツールを、日本中、世界中の人に、胸を張って勧めたいから。「サービスが世界標準になれば、『向こう5年、10年は安心して使える』と、一点の曇りもなく自信を持って言える」

 例えばそれは、運転免許のようなものだという。

 「車の運転は複雑で、教習所に何十回も通ってやっと習得できる。それでも多くの人がやっているのは、1度覚えれば一生、世界中で使えると分かっているから」

 トラックバックも決して簡単な仕組みではないが、世界標準になった。だからこそ、誰もが理解し、利用しようとする。

 「たとえ、はてなダイアリーの書き方が少し難しかったり、すぐには分からなくても、ブログは一生書くものと分かっていて、世界どこでも使えるとなったら覚えるはず」

 逆に、自社サービスを標準化できず、別のサービスが標準化してしまうと、ユーザーに学んでもらったノウハウがムダになったり、乗り換えコストを払わせたりすることになる。「それはユーザーさんに対して失礼」

 だから、一時の流行に乗り、目先の利益のためだけに無闇にユーザーを増やすことは、得策ではないと思う。「ブームやトレンドは3年〜5年で終わっていく。今たまたま盛り上がっているサービスがあるからといって、そのサービスのユーザーを倍にし、お金儲けしてみんなで分けましょう、みたいなことやってると、5年後、10年後に、あまりいい未来はない気がする」

 ブームにとらわれず、長く続く世界標準を作り上げられたなら、その後の可能性もぐっと広がるし、逆説的だが、収益も増える。「結局は、お金を儲けたいんだと思う。5年10年と言わず、もっと長い間、はてなのことを繁栄させて、関わった人すべてを幸せにしたいから」

画像 はてなダイアリーのアクティブユーザーが意外に少ないとブログなどで指摘された。近藤社長は「危機感はある」としながらも、ユーザーを増やすことだけを目的にするつもりはないようだ。「以前、個人ホームページ(HP)サービスがたくさんあったが、ユーザーを多く集めた業者が勝った、という訳ではなかった。むしろ、HPを検索できる検索エンジンなどがビジネスとして勝った」。シェアに固執するあまり、もっと大切なものを見落とすことは避けたいという

世界に認められたい

 昨年から何度も、米国を訪れている。シリコンバレーのIT企業の技術者に会い、技術イベントにも参加し、世界に通用する標準サービス開発の手がかりを探る。

 米国の技術者や環境は、日本とは違うという。「根本的に考えているというか、ダイナミックな感じ。何かが流行しているから、ちょっとくっつけてお金を儲けようという感じではなく、『何か変えるぞ』という勢いがある」

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