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ゲイツ氏に降りかかる「Vistaの呪い」

» 2006年06月20日 10時15分 公開
[David Morgenstern,eWEEK]
eWEEK

 ビル・ゲイツ氏は2008年7月4日前後に退職インタビューを行うが、これでは重役室を揺るがす新しいOSの力を疑わざるを得ない。OSの開発が会社の忠実なしもべたちを追い出してしまうであろうということを。

 だが業界の迷信家たちは、OS開発に関わるCレベル(CEO、CFO、CTOなど)幹部には奇妙な呪いがかかっていると信じているようだ。ファラオの呪いほど恐ろしいものではないが、それでも苦しい呪いだ。ご用心を。

 ビル・ゲイツ氏は引退パーティーの計画を立てるとき、間違いなくWindows Vistaやその兄弟分を宣伝せずに済む日が来ることを楽しみにしていることだろう。あるいは、Longhornにどの技術が入っていて、どの技術が入っていないか、今の重要技術は何なのかをいつも覚えておかずに済む日を待ち望んでいるだろう。

 確かに、Longhornのコードと機能は1999〜2000年に作られたものだ。確実に特定するのは難しいが、そもそものリリース目標は2003年のいつかだった。ゲイツ氏はその(計画の)PowerPointのスライドを長いこと押し進めてきた。

 では、それは呪いなのだろうか? まさしく、ゲイツ氏はVistaを見ると(たとえ一番小さなコンポーネントでも)胸が苦しくなるに違いない。それで同氏は、自分の会社の日常業務にかかわることをやめたに違いないのだ。同氏はLonghornが、Vistaが、皆さんが何と呼ぼうともこのOSが、すっかりイヤになっているのだ。もうたくさん、というわけだ。

 世界一の金持ちに、そんなものが必要だろうか? 結局はそういうことだ。

 ところでここで、物議を醸したOS開発を受けて、スティーブ・ジョブズ氏がApple Computerを追放されたことを思い出す人もいるかもしれない。Macソフトにはハードウェアが付いていた。だが1984年、歴史のもやに覆われた128K Macの登場で、表彰もののMacの意匠に注目して、OSやFinder(スティーブ・キャップス氏とブルース・ホーン氏が開発)、QuickDraw(ビル・アトキンソン氏とアンディ・ハーツフェルド氏)、パッケージソフトのMacpaint(アトキンソン氏)、MacWrite(ランディ・ウィギントン氏)を忘れてしまうことは簡単になった。

 このシステムの開発は開発チームに犠牲を強いたし、Apple内でも紛争を引き起こした。有名な海賊のエピソード(訳注:ジョブズ氏は「海軍に入るより海賊になれ」と語り、Mac開発のためにLisaプロジェクトからスタッフを引き抜いた)は、社内でのMacプラットフォームの立場を示す初期の象徴だった。そしてMacがリリースされたときに、事態が大きく好転することはなかった。Appleで1985年にもうけを出していたOS(とハードプラットフォーム)はMacではなく、むしろApple OSとAppleシリーズだったのだ。

 ジョブズ氏は1985年に退社した。Mac投入からわずか1年半後のことだった。呪いが働いたのだ。

 同氏はその11年後、Apple内で別のOSの移行問題が持ち上がったことを受けて同社に復帰した。同氏のNeXT ComputerのOSがAppleに買収されたのは、Apple内のOSプロジェクト「Copland」が度重なる遅れと開発問題で暗礁に乗り上げていたからだ。

 結局このCoplandの失敗が、ギル・アメリオCEOとエレン・ハンコックCTO(最高技術責任者)をAppleから追い出すことになった。彼らの後任にはNeXT Computerのスタッフが就いた。OSの呪いのもう1つの例だ。

 ゲイツ氏の引退は、Microsoftがパラノイアから離れて、業界における自身の位置をもっと現実的に見つめるチャンスだ。

 1980年代から今に至るまで、Microsoftにはパラノイアの文化があることにわたしは気付いた。わたしの賢明な仲間たちでも、レドモンドや(Microsoftの)ほかのオフィスで6カ月働けば、どういうわけかMicrosoftは「世界最大のソフトメーカーで世界中のデスクトップの95%を握っている」のではなく、「ナンバー2」だと信じるようになってしまうだろう。

 この文化が、Microsoftを米司法省や欧州連合(EU)との反競争的な慣行をめぐるトラブルに巻き込んだ。それはMicrosoftの人たちが、行く手にはオオカミがいて、必死で戦ってトップへの道を行かなければならないと心の底から信じているからだ――それは実現不可能な目的だ。彼らは既にトップなのだから。

 だからゲイツ氏の引退は、Microsoftスタッフにとっては精神安定剤のような効果をもたらすかもしれない。だが、実際はそうはなりそうにない。パラノイアを続けるのに十分すぎるほどのエネルギーを、スティーブ・バルマー氏は持っているのだから。

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