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インターネットの父いわく「NGNは実のない議論」

» 2006年09月13日 19時45分 公開
[高橋睦美,ITmedia]

 TCP/IPの共同開発者にして「インターネットの父」の一人に数えられるビント・サーフ氏が来日した。同氏は2005年10月にMCIを辞し、Googleのチーフインターネットエバンジェリストに就任している。

 サーフ氏は9月12日、報道関係者向けにインターネットの特質について語った。

 「郵便はがきはいったん投函すれば、それがどんな経路で配送されるかについて気にする必要ない。また、そこにどんな言葉が書かれていようと郵便局は気にしない。インターネットも同じだ。媒体がツイストペアか光ファイバか、あるいは無線かといった事柄は気にする必要はないし、アプリケーションのことも関知しない。テキストだろうが何だろうがただの『ビット』として扱う」(サーフ氏)

郵便と比較しながらTCPおよびインターネットの設計思想を説明したサーフ氏

 テレビや電話といった、専用ネットワークを構築した既存のメディアとの最大の違いはそこにあり、パケット交換方式を採用しているからこそ「あらゆる形式のデジタル情報を運ぶことができる」とした。

 その意味で、現在話題となっているNGN(Next Generation Network)は、インターネットが本来持つ柔軟さを損なうものであり、「実のない議論だ」と一蹴。テレコム産業側は、音声や動画の配信にはQoSが必要だ、やれコントロールやインテリジェンスが必要だと主張するが、「パケット交換ネットワークのほうがうまく機能するし、より柔軟だ」と述べた。

 また、Googleという企業自身が代表格として取り上げられる「Web 2.0」というコンセプトについても、「Web 2.0はバズワードの1つ。Webサービスを別の言葉で言い換えたに過ぎない」と述べた。ただ、そのアイデア自体は非常に優れたものだと感じているという。

 同氏はWebサービスの本質を、物理的にさまざまな場所に分散しているリソースを仮想インタフェースを通じて柔軟に利用するものと定義。ビジネスプロセスを自動化し、さまざまなサービスの相互連携をより使いやすい形で実現できる、興味深いアイデアだとした。

プレゼンス、機器間の連携……

 サーフ氏は今現在、そして今後起こるであろう変化にも触れた。1つは「モバイルプレゼンス」だ。位置情報やその周辺情報など、より多くの情報を利用しながらのインタラクションが可能になるため、新しいチャンスにつながるという。

 同時に、モバイル端末も含めたさまざまな機器が、ただネットワークにつながるだけでなく、互いに連携するようになるだろうと述べた。デバイス同士がやり取りを行い、接続している環境やユーザーのニーズに応じて動作するような世界だ。例えばPowerPointでプレゼンテーションを行おうとすると、PCとプロジェクターが自律的に連動し、ファイルを転送してくれるようなイメージだ。

 サーフ氏はこうした世界において、テキストベースのコミュニケーションにとどまらず、音声やビデオ、テレビ会議を用いたコラボレーションが可能になるだろうと予測する。また、そこではIPv6も重要な役割を果たすだろうと同氏。特に消費者向け家電がネットワークに接続されるようになれば、IPv6の導入にとって大きな牽引力になるだろうとした。

 一方、こうした世界を実現する上での課題については、「技術的なイノベーションに加え、グローバルな合意形成が重要だ」という。機器同士がコミュニケーションする世界では、何らかの手段を用いてモバイル端末やPC、サーバがそれぞれの状況について伝え、サービスをカスタマイズするよう情報を交換することになる。そのためのプロトコル拡張が1つの例だが、「昔のメールシステムや今のIMもそうだが、プロプライエタリな障壁を破らなくてはいけない」(同氏)と述べた。

 「インターネットはオープンな環境だ。開かれているがゆえに、中にはつまらないアイデアもあるが、そこからいくつか非常におもしろいことが生まれ、革新を推進してきた」(同氏)

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