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「次世代DVD戦争」に早期決着を迫った市場のスピード 東芝がHD DVD撤退

» 2008年02月19日 21時50分 公開
[ITmedia]
photo HD DVD撤退を発表する西田社長

 「お客やパートナー企業を考えると苦渋の決断だった」「だが固執してほそぼそと続けても、勝ち目がないと判断した」──東芝が2月19日、3月末をめどにHD DVD事業から撤退することを正式発表し、次世代DVDはBlu-ray Discに一本化されることが事実上決まった。会見した西田厚聰社長は「HD DVDの優位性は現時点でも変わっていない」としながら、米Warner Bros.の離脱以後、市場は急速にBD優勢に傾いた。「理由はどうあれ、変化を冷静に直視し、対応する必要がある」と早期の決断を促した。

 一方で、同社が世界2位の市場シェアを持つNAND型フラッシュメモリの新工場を、1兆7000億円規模の巨費を投じて建設する計画も同時に発表した。西田社長は「他社に先んじる必要がある。わずかな遅れが大きな損失につながりかねない」と説明。会見中は「先手」「スピード」という言葉を繰り返した。

 東芝が初のHD DVDプレーヤー「HD-XA1」を発売したのは2006年3月31日。「次世代DVD戦争」はちょうど2年後の“誕生日”までに事実上決着することになった。約10年間にわたって国内メーカーを二分したVHS対ベータマックスの争いに比べ、短期間での終戦を迫ったのは、生き馬の目を抜く世界的な企業間競争と、加速を続ける市場のスピードだった。

photo 初のHD DVDプレーヤー「HD-XA1」

BDプレーヤー・レコーダーは「考えはなし」

 HD DVDプレーヤーとレコーダーの開発・生産は終了。出荷も順次縮小し、3月末をめどにHD DVD事業を「終息」する。PC向けやXbox 360向けのドライブも量産を終了する。東芝製PCのHD DVDドライブ搭載モデルは、「スーパーマルチDVDドライブにHD機能がついている。現行DVDプラスアルファの機能を求めるユーザーもいるため、すぐに中止はしない」(西田社長)として今後検討する。

 撤退に伴い、ユーザーからの問い合わせに対応するコールセンターを強化する。修理・アフターサービスも継続し、修理用部品は製造中止から8年間は保持する。またレコーダー用に、HD DVDブランクディスクを一定期間ユーザーが入手できるよう、ディスクメーカーと協議してネット販売などで提供することを検討する。海外各地域でも同様の対応を実施していく。

 現行のDVDプレーヤー・レコーダーは従来通り事業を継続する。BDを搭載したプレーヤー・レコーダーの可能性について、西田社長は「現時点では生産販売する考えはない」とした。

「油断と言えば油断だが……」

photo 会見の様子。説明者として出席したのは西田社長のみ。報道陣やアナリストが部屋に入りきれず、別室も用意された

 西田社長の会見は19日午後5時、東京・浜松町の東芝本社ビル最上階の39階で開かれた。そう広くない会見室に詰めかけた報道関係者やアナリストらを前に、西田社長は「事業環境の変化を受け、1日も早い意志決定が必要だった」と撤退理由の説明を始めた。

 「12月末から1月始めまでは、プレーヤーの市場シェアはHD DVDのほうが高く、PC用ドライブもこれから一気に広がるという状況だった」。これを一変させたのが「寝耳に水に近いものだった」というWarnerの離反。HD DVDの劣勢と見た米小売り大手も次々とBD支持を打ち出し、「勝ち目がない」と判断せざるを得なかった。「長期化による当社への影響や、消費者への影響も考え、HD DVDの終息を決定した」

 致命打になったWarnerの離反は「油断といえば油断かもしれない。だが契約が切れる前だったことを考えると、難しい」と振り返った。HD DVDを支持したParamountに対する見返りとして、1億5000万ドルの報奨金を支払う“密約”が取りざたされたこともあったが、「それは米国の憶測記事であり、コメントしない」とした。

 撤退はこの日の取締役会で決定した。反対意見もあったもようだが、「(内容は)話せない。いろいろな議論があった中、最終決定した」という。HD DVDに携わった社員や生産設備は「東芝グループ全体の中で、適材適所で活用していく」とした。

 撤退に伴い、在庫の処分などで発生する費用は「確定していない」が、数百億円規模に上るとみられる。今期業績に与える影響は「NANDフラッシュやPC、社会インフラの動向などの考慮が必要」として現時点での見通しは明らかにしなかった。

 撤退により、米国でユーザーが訴訟を起こす可能性について問われると「われわれはハードを販売し、ソフトは映画会社が販売してきた。東芝が責任を全部持って商品を提供してきたわけではない。法的にも十二分に対抗できるのでは」とした。

 Universal、Paramountが今後HD DVDタイトルをどうするかについては「彼らの決定は彼らが行うこと」と述べた。HD DVDを支持した米Microsoft、米Intel、米Hewlette-Packardらのパートナー企業とは今後も協力関係を続け、HD DVDで培った技術を活用しながら協力の可能性を探っていくとした。

NANDへの集中、先手が不可欠

 今後の映像事業は「NANDフラッシュや小型HDDなどのストレージ技術、次世代CPU(Cell)、画像処理技術などを生かし、新たなデジタルコンバージェンス時代に適した中長期的な戦略を再構築する」という。光ディスクで敗れた東芝だが、次のデジタル戦略のカギになるとみているのは低価格化・大容量化が進むNANDフラッシュだ。

 大規模投資に踏み切るNANDフラッシュ新工場は、現在の生産拠点・三重県四日市市と、岩手県北上市にそれぞれ1棟ずつ、2009年春に同時着工して10年の完成を目指す異例の計画だ。それぞれ300ミリウエハー換算で月産15万〜20万枚の生産能力を備える予定で、稼働後の能力は現在の4倍近くに拡大。世界最大手の韓国Samusung Electronicsを一気に突き放す。

 西田社長は「NANDフラッシュは携帯機器やメモリカードなどに用途が広がり、需要が拡大している。2010年以降はPCにもSSDの採用が本格化すると見ており、新市場の創出を含め中長期的に大きな需要が見込める分野だ」と期待。「昨年秋口から急激に価格が下落し、足下は不透明感が漂う。だが将来を考えると、ここで投資の手綱を緩めるわけにはいかない」と力を込める。「需要急増に対応できる態勢構築が必須。わずかな遅れが大きな損失につながりかねず、重要な決定だ」

 HD DVDからの撤退とNANDフラッシュ新工場への巨額の投資。「選択と集中という性格の異なる意志決定だが、変化をとらえ、先手を打つことが不可欠という認識のもとで決断した。米国景気の後退懸念など環境は厳しいが、利益を出せるようスピード感ある経営を進めていく」

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