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» 2008年04月16日 15時35分 UPDATE

「漫画トレースもお互い様だが……」 竹熊健太郎氏が語る、現場と著作権法のズレ (1/2)

ネット上で「トレース疑惑」が検証され、漫画家同士の模倣が次々に暴かれている「恐ろしい時代」。漫画の現場は慣習で動き、法律と編集者の意識はズレていると、竹熊健太郎氏は言う。

[岡田有花,ITmedia]

 「漫画家にとって、恐ろしい時代だ」――ネット上ではここ数年、漫画の「トレース疑惑」の検証が盛んだ。別の作家の漫画から似た構図のコマなどを見つけてネット上に公開。「盗作」と騒動になれば、出版社がその漫画を絶版にすることもある。

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 だが漫画界では、作家同士の模倣はよくあること。ほかの作品を参考に描くことも、暗黙のうちに認められてきたという。同人作家による2次創作も黙認され、“グレーゾーン”から多くの作品が生まれてきた。

 漫画の編集実務に詳しい編集者・文筆家の竹熊健太郎さんが4月15日、「著作権保護期間延長問題を考えるフォーラム」(ThinkC)が開いたパネルディスカッションに参加し、模倣やトレースの事例を紹介。「漫画制作の現場は法律ではなく、慣習で動いている」と現状を説明した。

 パネルディスカッションには、北海道大学大学院法学研究科教授の田村善之さん、弁護士でクリエイティブ・コモンズ・ジャパン専務理事の野口祐子さん、評論家の山形浩生さんも参加。それぞれの立場から意見を述べた。

手塚治虫とディズニーの“パクりあい”

 手塚治虫さんの初期の作品には、ディズニー作品からの“パクり”が多くあったという。竹熊さんが紹介したのは、1949年に発表された漫画「メトロポリス」に登場するネズミの怪物「ミキマウス・ウォルトディズニーニ」だ。その名の通り、名前も見た目もミッキーマウスだ。

画像 「メトロポリス」より。どこからどう見てもミッキーマウスだ

 逆にディズニーが手塚作品を“パクった”という疑惑もあった。「ライオンキング」は「ジャングル大帝」のパクリではないか――ディズニーがライオンキングを公表した際、そんな議論が盛んになり、日本の漫画家はディズニーに抗議しようと署名活動などを始めた。

 だが手塚プロの社長が「天国の手塚治虫も、ディスニーに影響を与えたことに光栄に思うだろう」とする声明を発表。ディズニーに対して法的な行動は取らないと意思表示した。竹熊さんはこの判断の背景に、手塚さん本人がディズニー作品からかなり“パクって”いたことがあると見る。

 「メトロポリスのような作品をディズニーが問題にしたら、メトロポリスを含む全集が絶版になってしまう可能性がある。これは手塚初期の代表作であり、名作。作品としての価値はある。著作権と作品の価値がぶつかった時、歴史的に重要な名作が出せなくなるのは、文化的な損失ではないか」

トレースは漫画の技法だが…… 「エデンの花」絶版回収問題から

 作品の模倣や盗用が、一般のネットユーザーによって次々に発見されるようになった。「今は漫画家にとっては恐ろしい時代。ネットの複数の人間がよってたかって検証を始め、あっという間に元ネタが丸裸にされる。全体をみると価値がある作品でも、一部が模倣やトレースだとネットでは盗人扱い。人間性まで否定されるくらいバッシングを受ける」

画像 竹熊さん。「サルでも描けるまんが教室」には、他人の漫画を手に「見てかきゃいいんだ」と叫ぶ竹熊に対し、相原が「それはパクリと言うのでは……」とビビるシーンがある。竹熊いわく「確かにパクリだ。だがそれはみんなやってることなのだ!」

 漫画界に大きな衝撃を与えたのは、末次由紀さんの漫画「エデンの花」のトレース疑惑。エデンの花の構図や絵に、「スラムダンク」(井上雄彦著、集英社)からの盗用が多く見つかったため、講談社は彼女の過去の全作品を絶版にすると発表した。きっかけは、検証サイトによる“告発”だった。

 「過去の作品まですべて絶版にするという講談社の処分は、漫画界からの追放と同義。あまりに厳しすぎるのでは」と竹熊さんは指摘する。「構図や絵のトレースは、ほめられたことではない話かもしれないが、漫画の歴史にはざらにある話。末次さんはちょっと極端にトレースはしているが、この人がだめならあの先生はどうか、ということになる」ためだ。

 その後、スラムダンクもNBAの公式写真集から構図を“パクって”いるというトレース疑惑が浮上。検証サイトが作られた。「写真のトレースは、70年代から漫画の基本的な技法として定着している。劇画系の写実的な漫画はほぼ100%、元の写真があるもの」

 そもそも、元ネタがない創作は原理的にありえないと竹熊さんは指摘する。「『2001年宇宙の旅』のスタンリー・キューブリック監督は、宇宙人をデザインする際『地球上では見たことのない生物を』と世界中の画家に頼んだが、オリジナルな生物は誰も思いつかず、既存の生物のしっぽと頭の組み合わせ、といったものばかりだった。創作は知っている物の組み合わせ。オリジナリティーで胸を張るのは結構だが、あんまり過剰に主張するのはどうかなと思う」

編集者は裁判沙汰を避けたがる

 漫画家同士の模倣は本来、表沙汰にならないことが多く、ほとんどのケースでは警察沙汰にも民事裁判にもならないという。理由はお互い様だから、そして「裁判沙汰だけは避けたい」と考えているからだという。

 「問題が起きたら菓子折りを持って飛んできて、裏で示談で丸く収めるのが優秀な編集者」――「エデンの花」のケースでも、“パクられた”井上さんからのクレームはなかったようだ。

 ただ、そうやって裁判沙汰を避けるのも問題だと竹熊さんは指摘する。「判例がないからまた同じことを繰り返すという不健全な状態。裁判して判例が出た方がいいんじゃないかとも思うが、出版社からするとうやむや、グレーなままでいってほしいようだ」

現場は、法律ではなく慣習で動いている

 著作権について正面から話すこと自体、出版界ではタブーだという。「漫画界や出版界は、法律論とは別の所、慣習で動いていて、現場と法律の齟齬(そご)はよく実感する。『これはなんとなくまずいだろう』という慣習をベースにした判断基準があるが、出版社によって違うし、人によって違っていい加減」

 作家も編集者も著作権法を知らないと話す。「転載と引用の区別について編集者50〜60人に聞いたことがあるが、はっきり知っていたのは、2〜3人だった」

 出版界のあいまいさは、悪いことばかりではないという。「僕は、本を出す前に出版契約書を交わしたことが1度もない。契約書を最初に交わすと縛りになり、締切を守らなくてはならなくなったりするが、僕は原稿が遅いから、本が出てから契約することによって救われている。それがいいこととも思わないが、現場はフレキシブルに動いている」

コミケは黙認だが、同人作家が逮捕されることも

 同人誌が発達し、コミックマーケット(コミケ)の参加者が増えている。竹熊さんによると、そこで販売されている同人作品の8〜9割は、アニメや漫画のパロディ(2次創作)だという。2次創作は、元ネタ作家に無断で作成・販売しているケースがほとんど。元の作家や出版者の権利を侵害していることになる。

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