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PS3のWebブラウザ、独自エンジンだからできること

» 2008年07月28日 08時36分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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 「プレイステーション 3」(PS3)のWebブラウザ機能利用者が増えているという。「こんなに利用していただいていたのか」と開発者が驚くほどに。

 ソニーが開発した独自のエンジンを搭載したタブブラウザで、「PCと同等に使える、テレビに特化したWebブラウザ」を目標に改善を進めている。

 2006年の発売当初は動作が遅かったり、表示できないサイトが多いなど問題があったが、徐々に改善。マウスやキーボードを利用できることもあり、PC代わりの利用もかなり増えてきたようだ。

 ライバルの「Wii」は組み込み型Operaを搭載しているが、PS3はあえて独自エンジンを採用している。その狙いや特徴、今後の展望について、ソニー・コンピュータエンタテインメントネットワークプラットフォーム開発部の梅村晃二郎部長と、同部11課の高瀬昌毅課長、同課の青木剛一さんに聞いた。

130MバイトのメモリでフルHD表示を

 PS3も当初は、既存の組み込み向けブラウザ採用を検討していたという。だが「ハイビジョンのテレビ画面でPC向けフルブラウザ並みのパフォーマンスを出す」という目的にかなう組み込みブラウザが見つからなかった。

 PS3のメモリは256Mバイト。うちブラウザで使えるメモリは130Mバイトに過ぎないが、1920×1080ピクセルのフルHD表示に対応する必要があった。「モバイル向けの組み込みブラウザはあったが、この解像度で表示できる省メモリのブラウザはなかった」(青木さん)。加えて、ゲームと連動させるなどPS3の機能と連携できる柔軟性も必要。組み込み向けでは難しかった。

 ちょうどそのころ、ソニーがカーナビや家電向けに独自ブラウザの開発を始めており、このエンジンをPS3にも利用できそうだと分かったため、独自エンジン採用を決定。1年半をかけ、PS3のOS開発と連動させながら開発を進めた。

パフォーマンスは徐々に改善

 当初は「表示が遅い」「表示できないサイトが多い」といった不満がユーザーから寄せられることも多かった。メモリが小さいためデータ読み込みに時間がかかり、真っ白なページのまま長い間表示を待たなくてはならない――というケースが多かった。

 リリースの約1年半後、「インクリメンタルレンダリング」を搭載した。データを複数回に分けて読み込み、一部ずつ徐々に表示していく仕組み。データ全体を取り込み終わるまで画面が表示されなかった従来の仕組みよりも体感速度が改善した。仮想メモリも取り入れたほか、XMB(クロスメディアバー。PS3のユーザーインタフェース)からブラウザ単体で利用する時にはSPU(Cellに7基載っている処理コア)も利用することでパフォーマンスを改善した。

 閲覧できるサイトも増やしていった。ゲームプレイ後にプレイ日記を更新してもらえるよう、主要なブログサービスも確実に表示できるようにしたほか、「YouTube」も表示可能だ。

 表示できるサイトの範囲はユーザーからの要望を組み入れながら広げている。「ゲーム機だから見られないとか、ゲーム機だから遅い、というのをなくしたい」(高瀬さん)

テレビで閲覧するブラウザだからこそ

 テレビに接続したPS3で操作することを考え尽くした操作性が売りだ。例えばズーム機能。テレビでWebサイトを閲覧する際は、画面から離れて見ることが多いため細かい字は読み辛い。コントローラの方向キーや左スティック(L3ボタン)でカーソルを合わせ、さらに右スティック(R3ボタン)を押し込むだけで、その部分をズームできるようにした。

 倍率は、テキストならばカーソルが当たっている部分の文章全体が読める大きさに、画像ならその部分の画像ファイル全体が見渡せる大きさに自動で拡大するため、ユーザーが倍率を設定してやる必要もない。

 USBキーボードやマウスも利用できるようにし、PCの操作性に近づけた。キーボードをつないでWebメールを利用している人も多いようで、一時期Webメール閲覧で不具合が出た際、問い合わせが急増したという。

 写真をきれいに閲覧できる点も売りだ。画質のいいハイビジョンテレビなら、オンラインアルバムサイトの画像などをきれいに表示できる。

ゲームとの連動も

 ゲームによってはWebブラウザ連動機能を備えている。最もよく使われているのはオンラインマニュアル。Webからゲーム内にマニュアルを引用できるため、開発者はHTMLさえ書ければマニュアルデータを作成でき、ゲーム内にマニュアルを仕込んでおく必要がない。ユーザーも、紙のマニュアルを探し回る必要なく、疑問点をゲーム中にそのまま確認できる。

 ゲームから関連するWeb情報にアクセスしたり、ゲームと連動したSNSを作ったりといったことも可能だ。PS3用情報番組「トロステーション」では、ネットの情報を紹介した際、関連サイトに直接アクセスできるようにしているほか、今後始める予定のサービス「今後始める予定のサービス、「Life with PlayStation」で世界のニュースにアクセスできる機能でも、Webブラウザコンポーネント(パーツ)として利用している(PS3を生活の一部に──新サービス「Life with PlayStation」)。

「PS3ブラウザに対応しました」と言われたい

画像 左から梅村さん高瀬さん、青木さん

 利用が増えてきたとはいえ、PS3のWebブラウザはまだマイナー。目下の課題は、Webコンテンツ制作者に「PS3対応」を意識してもらうことだという。

 Web開発者はInternet ExplorerやFirefoxはもちろん、WiiやiPod touchなども意識し、それぞれに最適化したコンテンツをリリースしている。だがPS3はまだまだ。最適化したいと思ってもらえるぐらいの存在感を打ち出していきたいという。

 機能や処理速度も「アグレッシブに改良していきたい」(青木さん)とし、ゲーム機で使えるPC並みブラウザを目指して改善を続けていく。

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