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歌詞つぶやいても大丈夫? RTは? Twitterと著作権を考える寄稿・福井健策弁護士(1/2 ページ)

» 2010年03月19日 07時00分 公開
[福井健策,ITmedia]
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 140字で世界を席巻するソーシャルメディア「Twitter」と著作権をめぐる話題を見かけることが増えている。先日は、日本音楽著作権協会(JASRAC)の菅原瑞夫常務理事が「歌詞をつぶやけば使用料が発生する」と発言した、というつぶやきが爆発的な反響を呼んだのは記憶に新しい。

 著作権などというカタクルシイものと、140字コミュニティーの自由さは対局に位置していると感じる人もいるだろう。とはいえ、筆者自身もTwitterを使ってみて、「これは著作権的に面白いな」と思う機会が一度ならずあったのも事実。今回はQ&A形式で、Twitterと著作権の関係を考えてみよう。

Q1:歌詞をつぶやくと使用料がかかるのか?

 そもそもつぶやく行為とは何か。これは情報をTwitterのサーバーなどに複製し、そこから公衆送信する行為だ。よって、他人の著作物を無断でつぶやくと、一義的にはつぶやいたユーザーが「複製権」「公衆送信権」などを侵害する可能性がある。

 では、歌詞のつぶやきは全て著作権侵害になりそうだから、権利者の許可が必要なのか。これは違う。

 第1に、短いタイトルやフレーズは、原則として著作権では守られないため、自由に利用できる。「♪don’t think twice, it’s all right」とか、「♪にくいよ!この、ど根性ガエル」なんてフレーズは、おそらく使っても問題ないだろう。

 第2に、それを超える長さのフレーズでも、引用の範囲内ならば利用できる。「XXのあの歌のXXXの箇所は、おそらくXXXへのオマージュ。というのは……」といった使い方がその例(これが出来ない社会は危うい)。

 引用が許されるための基準は、裁判例も揺れているので一概には言い難いが、(1)対象が公表作品であること、(2)自分の言葉と人の言葉の区別がつくこと、(3)人の言葉がメインにならないこと(主従関係)、(4)引用する必要性や関連性、(5)人の言葉を改変しないこと、(6)出典を示すことなどが考慮される。

 いずれにしても、上記の2つで歌詞のつぶやきのかなりの部分はカバーされるだろう。

 引用にあたらないような、長めの歌詞のつぶやきの場合、現在の法律と裁判例を前提にするならば、おそらく許可はいる。もっともこれは、歌詞に限った話ではなく、映画や漫画の台詞、小説の一節などをつぶやく際にも言えることだ。むしろ他ジャンルでは音楽ほどには、JASRACなどの集中的な権利管理は進んでいないので、使用料以前に許可をとるのが難しい。

 以上は、Twitterに限らず、ネットでの作品流通を広げる上では共通の課題であり、いくつかの取り組みも進んではいる。

 許可が必要だとなった場合、その許可を取るのは、つぶやいた個人とサイト運営者の双方があり得る。ただ、JASRAC曲をつぶやいた個人が個別にJASRACの申請手続をするというのも現実的ではないので、YouTubeなどと同じように運営者(Twitter)とJASRAC間の包括契約を探るのが現実的か(YouTubeがJASRACと契約 演奏動画、投稿可能に)。

Q2:「tsudaる」ことは講演の著作権を侵害するのか?

 講演などをTwitterで中継する行為(「tsudaる」こと)はどうか。講演は、言語の著作物にあたるケースが多いので、それが原形に近い状態でTwitterに出るならば、講演者などの許可がいるのが基本だろう*。では逐語的でなければどうかといえば、「tsudaる」の語源となった津田大介氏が『Twitter社会論』(洋泉社)で述べているように、ケース・バイ・ケース。

 「事実やデータ」、あるいは具体的な言葉の裏に込められたメッセージなどの「アイディア」には、著作権は及ばない。よって、自分の言葉でかみ砕いて事実やメッセージだけ伝え、個別の表現をあまり借りないようにすること、発言を自分なりに取捨選択して、講演の構成をそのまま使わないようにすること、この2点がおそらくキーになるだろう。無論、それでいながら要旨を曲げて伝えないことは何より重要だ。

 「tsudaる」にはそれなりに技術と覚悟がいる。一線を越えれば講演者や主催者に迷惑が及ぶこともあるので、自分なりの要旨の紹介にとどまれるか不安ならば、事前に了承をとるのが無難には違いない。

Q3:つぶやきは著作物か?

 では、他人の作品の利用ではなく、自分のツイート(つぶやき)は著作物なのか。それこそケース・バイ・ケースだろう。著作物とは「創作的な表現」なので、事実を淡々と述べたもの(「スタバでキャラメルマキアートなう」)や、ありふれた表現(「朝から爆笑しましたwww」)は無論あたらない。しかし、過去の裁判例では5・7・5の交通標語や雑誌の最終号あいさつなどにも著作物性を認めたことがあり、140字以内でも内容によっては十分著作物にあたるだろう。まして、140字で連投したツイートの固まりなどは余計である。

 「ツイートは著作物か?」は海外でもよく議論される問題だが、英語140字と日本語140字を比べれば、通常は後者の方が入る情報量はぐっと多い。前述の「don’t think twice, it’s all right」はスペース込みで33文字だが、「2度考えるなよ。大丈夫さ」(ひどい訳だ)なら12文字。「日本語と英語のTwitterは別なメディア」と言われるゆえんだろう。英語のツイートがほとんど著作物にあたらないとしても、日本語のツイートも同じとは限らない。


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 なお、対象イベント自体に事件性がある場合や、政府の審議会の中継などの場合には、「時事の事件の報道のための利用」(著作権法41条)、「政治上の演説等の利用」(同40条1項)として認められる場合もあろう。

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