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» 2012年06月14日 01時37分 UPDATE

「ユーザーも声あげて」――違法ダウンロード刑事罰化問題、予断許さぬ状況

違法ダウンロードの拙速な刑事罰化に反対する国会議員が徐々に増えているが、予断を許さぬ状況に変わりはない。「ユーザーは選挙区の議員に働きかけてほしい」と、津田大介さんは言う。

[ITmedia]

 違法にアップロードされた音楽ファイルなどをダウンロードする「違法ダウンロード」に対し刑事罰を導入する著作権法改正案の修正案を、自民・公明が近く提出する見通しになったことに関連し、インターネットユーザー協会(MIAU)が6月13日、衆議院第一議員会館(東京・永田町)で、勉強会を開いた。

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 MIAU代表理事でジャーナリストの津田大介さんや弁護士の金井重彦さんなどが、議員やマスコミ、ネット関係者向けに、刑事罰化の問題点を解説。民主党の森裕子参院議員、宮崎岳志衆院議員、高井崇志衆院議員、社民党党首の福島瑞穂参院議員、共産党の宮本岳志衆院議員など刑事罰化に慎重な議員が出席し、「拙速な立法を避け、慎重に議論すべき」といった意見を述べた。

違法ダウンロード刑事罰化、予断を許さぬ状況に

 違法にアップロードされた音楽ファイルなどを違法と知りながらダウンロードする行為を禁じた、いわゆる「ダウンロード違法化」を盛り込んだ改正著作権法は2010年1月に施行。この際に罰則規定は見送られたが、音楽業界は「違法ファイルの流通がCD売り上げ減少につながっている」と主張。文化庁傘下の審議会などで、違法ダウンロードの刑事罰化を強く求めてきた。

画像 宮本議員

 ところが審議会では「刑事罰は重すぎる」という結論は揺るがなかった。「審議会という常識的なやり方では通らないと考えた音楽業界が、自民・公明中心にロビー活動をした」(津田さん)結果、自公は「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」(親告罪)を盛り込んだ案を準備。政府が今国会に提出した著作権法改正案の修正案として、15日の衆院文部科学委に議員立法として提出する見通しだ。

 「文部科学委では、質疑抜きで違法ダウンロード刑事罰化を採決し、多数で押し切ろういう流れが現実的になってきている」と、宮本岳志議員は言う。「関係者を呼んで堂々と委員会で議論すべきことなのに、自公はそうせず、それに民主も賛成という流れになっている」(宮本議員)。「国民は、どこでどういう力学が働いたか分からないまま、音楽業界の意向に沿った形で法が変わろうとしている」と津田さんは懸念する。

民主党内にも慎重意見 だが「難しい状況」

画像 金井弁護士

 違法ダウンロード刑事罰化については、ネットユーザーや法曹界から反対・慎重意見が相次いでいる。MIAUは、(1)実効性が低い、(2)子どもたちが摘発対象になる、(3)違法・合法を見分けることが困難、(4)捜査権の乱用を招くといった問題を指摘。「ネットユーザーほぼすべてを、とりあえず違法状態に置く法律」と、生貝直人・慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科特任助教は話す。

 日本弁護士連合会(日弁連)も、刑事罰導入に反対する会長声明を発表。「法律の専門家が利害を離れて議論した結果、反対でまとまった。法は家庭や私的な領域に入り込まないほうがよく、入り込まざるを得ない場合はできるだけ抑制的であるべき。立法化されれば一罰百戒的な運用になるだろうが、誰か1人が見せしめになるような立法は良いものではない。各人のPCはプライバシーのかたまりで、捜査機関によるプライバシー侵害も懸念される」と、金井弁護士は指摘する。

画像 森議員

 反対・慎重派の議員は民主党内にもいる。森裕子議員は「今の捜査当局に新たな逮捕・捜査の材料を与えるべきではない。広く一般家庭に捜査の手が及ぶ可能性がある。断固反対したい」と述べる。宮崎岳志議員は、「違法アップロードを取り締まった方が現実的。グレーゾーンが巨大なものを、一律刑事罰化するのは危険で時期尚早」と指摘。高井崇志議員は「ネット上の著作権問題は難しく、竹を割ったような解決策はない」と慎重な意見だ。

 だが反対・慎重意見は党内では少数派。「刑事罰化について、わたしや川内さん(川内博史衆院議員)が部会で問題を指摘したが共有してもらえず、難しい状況にある」と森議員は吐露する。

画像 福島議員

 「刑事罰はやりすぎ」――社民党の福島党首は言う。「ネットの世界がシュリンクするのを心配している。ネットでは、マスメディアとは違う情報が入手できるが、それが壊れてしまうのでは。一罰百戒を狙っているのかもしれないが、影響があまりに広範囲に及ぶ」

 刑事罰化に反対の議員や識者も、違法ダウンロードを無条件に容認しているわけではない。議員立法という“裏技”を使って拙速に法改正するのではなく、オープンな場で議論すべきという意見が大勢だ。「少なくとも“裏の談合”はせず、国会できちんと、堂々と議論すべき」(森議員)。「海賊版や違法ダウンロードがやり得になっているという問題には対処すべきだが、議員立法を閣法に入れ込むようなコソコソしたやり方ではなく、審議会や国会で議論すべき」(津田さん)

ユーザーの声、議員に届けて

画像 津田さん

 私的利用目的でのダウンロードが違法とされる範囲は、現在のところ音楽と動画のみにとどまっているが、「今後、ゲームや写真、文章などすべての著作物の違法ダウンロードに刑事罰をつけようという話になっていくだろう」と津田さんは懸念する。そうなると、新聞記事をコピペしたブログ記事を印刷したり、アイドルの写真をダウンロードし、壁紙にするといったことも刑事罰の対象になる可能性があり、「4000万、5000万人が潜在的に犯罪者となってしまう」と津田さんは指摘。「著作権法だけが残り、日本の文化が滅びてしまうと意味がない」と、上沼紫野弁護士は言う。

 著作権法は権利者側のロビー力が強く、「権利者の声が法律になりやすい」(上沼弁護士)という事情も。だが、ユーザーの声で事態が変わる可能性は、まだ残されているという。「Twitterの影響が拡大し、ネットと政治の距離が近くなり、議員の意識も変わってきていると思う。今回、決定権を持っているのは民主党と公明党。自分の選挙区の議員に、メールやTwitter、電話などで、慎重な議論をお願いしたいと訴えるのが正攻法だろう」(津田さん)

 実際、この問題について電話で議員に訴える人も増えているが、感情的な訴えが少なくないという。「論理的に問題点を指摘し、コミュニケーションを成立させてほしい」と津田さん。「私生活に関わり、プライバシーも危機にさらされる可能性がある問題。国民的な議論を盛り上げていただきたい」(金井弁護士)

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