ファンに人気でも、スタンプ化できなかったコマもある。その筆頭が「甘寧一番乗り」だ。呉の猛将・甘寧が、敵の城壁を駆け上り、鉄球を振り回して「甘寧一番乗り」と叫ぶ勇壮なシーン。三国志好きなら知らぬ人のないコマで、LINEスタンプ購入者から「なぜこのコマがないのか」という声が最も多かったという。
「選んであったんですが……」。原さんは悔しそうに話す。入れられなかった理由は2つある。1つはシチュエーションのかぶりだ。「甘寧一番乗り」は、トークを始める際のきっかけのスタンプとして使えるが、戦闘開始の銅鑼が鳴る様子を表したスタンプ「ジャーンジャーンジャーン」とかぶってしまうため、後者を採用することになった。
もう1つの理由は、社内の理解を得られなかったこと。スタンプのデザインは全て社内の稟議を通す必要があるが、社内には三国志を知る人がほとんどいない。「呉の猛将・甘寧だから是非入れたいと訴えても『そんな武将は知らない』と言われてしまって……」
そもそもLINEスタンプは、そのコンテンツを知らない人でも欲しくなる、分かりやすいデザインであるべきとの社内からの意見に、原さんは反論することができなかった。「社内ですら説得できないのに、世の中を説得できるだろうか」――開発中にはそんな不安もよぎったという。
社外の三国志ファンに救われたこともあった。魏延が「わしを殺せるものがあるか」と叫び、馬岱が「ここにいるぞ」と応じるスタンプ。社内では理解が得られず、候補から落とされてしまったが、LINE社内の三国志好き担当者から「入れてほしい」とオーダーを受け復活した。「三国志という作品はそれだけファンが多いんだなと実感しました」
ユーザーニーズを読み違えてしまったものもある。寝込んでいる人のコマだ。ネット上では、病床の霊帝が「とてもつらい」とつぶやくコマが人気だが、スタンプに採用したのは、霊帝ではなく孫策が伏せったシーン。霊帝というマイナーキャラより、呉の初代皇帝・孫権の兄である孫策の方が「ファンが多いだろう」と考えた。
だが出してみると、「なぜ霊帝の『とてもつらい』がないのか」と、嘆きの声が多数届いた。「孫策と霊帝をてんびんにかけて、霊帝が勝つと思わなかった。僕としては一般に歩み寄ったつもりだったんですが、裏目に出ました……。とてもつらい」
一方で、ネットでほとんど出回っていないが、スタンプ化して人気となったコマもある。「いやでございます」だ。孫権の親戚・孫韶が、孫権に反論するシーンから取った。「この顔とこの味な言い回し! 孫韶もマイナーキャラですが、これを機にみんな、孫韶に興味を持ってもらいたいですね」
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