ドワンゴとNTT(持ち株会社)は11月20日、「niconico」の視聴品質の最適化や生放送へのH.265/HEVC導入などで共同実験を始めたと発表した。資本・業務提携による取り組みの一環で、「国内最大級の動画サービスと通信事業者が、互いに共通するネットワークの課題に挑戦し、解決する取り組み」だとしている。
昨年7月に資本・業務提携し、NTTはドワンゴ株式を取得。それから1年強の取り組みの成果として、(1)バーチャルリアリティ(VR)ライブ配信、(2)視聴品質最適化、(3)H.265/HEVC適用――の3つを説明している。
VRのライブ配信は、ライブ会場に設置した360度全天球カメラの映像をインターネットを通じて生配信する技術。視聴者は、Webブラウザ上のビューアやヘッドマウントディスプレイ(HMD)を使って自宅にいながら現地の雰囲気を体感できる。
ユーザーが視聴している方向の映像だけが高解像度、周囲は低解像度で表示され、視点を変えると新たな部分の映像に“ピントが合う”のが技術的な特徴。全体の使用帯域を抑えつつ、どの角度を見ても映像が欠けないようになっている。大規模配信を見据え「ニコニコ生放送」のインフラに組み込んだため、原理的には数万人から数十万人単位の同時視聴が可能だ。
11月17日に行われた小林幸子さんの50周年記念コンサートで初めて導入され、HMD「Oculus Rift」で楽しめるVR版を配信した。
ドワンゴ企画開発部の岩城進之介さんは、「フレームレートや映像品質などは実際にやってみてうまくいかなかった部分もあり、今後さらに改善されていく予定」という。「まだHMD自体が一般に普及していないので、トータルのユーザー体験としてのデザインが難しい。今後の課題は技術的な部分以上に、どういう楽しみ方を提案できるか」と振り返り、今後違う場面でも同様の配信を積極的に行っていきたいと話す。
視聴品質の最適化は、利用時間や場所など、ユーザーの視聴環境に合わせてより快適な動画品質で届けるための取り組みだ。
例えば、朝の通勤時間などネットワークが混雑した時間にモバイル端末から視聴している場合は300Kbpsで、深夜自宅の光回線で接続している場合は4Mbpsで――と自動で最適化する。NTTの通信キャリアとしての通信統計情報やniconicoの利用データを基に、これまで難しかった的確な利用状況予測ができる「品質API」を開発したことで、実現につながった。
ユーザーを対象にしたプレ評価実験では、最繋時には33%のユーザーに発生していた「再生停止」が1〜2%にまで低減し、体感品質も大きく向上。通信データ総量も10%以上削減することができ、通信キャリアとしてもプラスの成果となったという。
Android公式アプリ利用者から無作為抽出したユーザーに対し、今日から実証実験がスタート。結果を見て今後広げていく予定だ。
H.265/HEVCは、現在広く使われている「H.264 MPEG-4 AVC」の後継となる動画圧縮技術(コーデック)。H.264に比べ半分以下の配信帯域で同じ画質の映像を配信できる圧縮率の高さが特徴だ。
ニコニコ動画で順次対応する予定。さらにニコ生にも導入することで、スマートフォンなどで回線状況が悪い場合でもスムーズに高画質で視聴できるようになる。
ただ、H.265の最大の問題は圧縮処理の負荷が高いこと。標準化団体によるエンコーダを使って生放送映像をエンコードすると、処理によってタイムラグが約5日間分も生じるのだという。
NTTは、画像の重要な部分や背景との境界を認知して効率的なブロック分割を行う技術と、低レート・少画面の小型PCでも無駄なく効率よく圧縮作業ができるマルチコアCPU向けリソース最適化技術などを独自開発し、リアルタイム圧縮を可能にした。今後公式生放送番組から導入を始める。
NTT研究企画部門の木下真吾担当部長は「サービスと通信キャリアが利害対立する時代は終わり、協力関係によって新たな発展につなげられている実感がある。技術の高度化やサービスの進化という両社それぞれの視点だけでなく、両社共通のメリットとして『お客様満足度も高まるネットワーク効率の最大化』を追求していく」と今後の展望について話している。
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