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40年前のデザインを現代に復刻――昭和の壁紙をデジタルでリメイクしてみたあなたの知らないプリンタの世界(1/2 ページ)

» 2016年03月24日 11時00分 公開

 前回は「“DIY女子”の強い味方」として、海外のカラフルでデザイン豊富な壁紙について取り上げました。

 海外の壁紙の種類とデザインの奇抜さに驚きつつも、同時に悔しさもありました。日本も生産量世界第4位とも言われる壁紙大国、新たな可能性を広げ、気付いてもらうにはどうしたらいいのか――そんな気持ちでスタートした、40年前の壁紙の復刻プロジェクトをご紹介します。

photo かな文字をデザインしたもの、高級感あるメタリック素材――昭和の壁紙をリメイクし、カラフルな現代風に

ネットでは調べられない昔の壁紙

 思い起こせば数年前、内装会社で昔の壁紙見本帳を見た時のこと。ボロボロになったカタログですが、中を見て驚きました。真っ白の壁紙でしたが派手なエンボス(凸凹)が深く刻まれていてとても格好よかったんです。

 資料として残されている壁紙には存在感あるものが数々ありますが、年代が変わってくると、廃番になっているものがほとんどです。この十数年で印刷技術も格段に進化しました。最新のデジタル印刷を使えば、版いらずで色数もサイズもフリー、在庫を持たずに必要な分だけ印刷できます。

 デジタル技術で40年前の壁紙をリメイクすれば、きっと新鮮な気持ちで見てもらえるはず。さらに遡った時代の伝統や歴史あるモチーフやデザインを再活用し、世界に広げていくこともできたらいいな……。

 そんな夢を抱き、壁紙の需要が多かった高度経済成長期の時代のデザインを検索してみたのですが、ネットではいくら検索しても見つかりません。

 それならば正攻法で頼んでみよう、と体当たりでスタートしたのが2015年夏。壁紙やカーテン、床材の総合インテリアブランド・サンゲツさんに「昔のデザインをぜひ見せてほしい」「デジタル印刷と組み合わせたら何か面白いことができるんじゃないか」という思いで連絡を取り付けました。

伝説の壁紙見本帳「赤い弾丸」

 そしてついに巡り会えました。これが、1975〜77年に実際に使用されていた実際の壁紙見本帳です。紙が黄ばみ、めくれや傷みもある年月を感じるこのカタログ、通称「赤い弾丸」と呼ばれる、インテリア業界では伝説の見本帳です。その呼び名も納得の格好よさ。

photo 伝説の見本帳「赤い弾丸」(協力:サンゲツ)

 中を見て驚きました。色とデザインがあふれています。日本の豊かな壁紙文化を感じる、デザイン原画や海外のサンプルのようなものまでたくさん見せていただきました。

photo カラフルなデザインがたくさん(協力:サンゲツ)

 実際のデザインを前にいろいろとお話をさせていただき、11月のインテリア展示会「JAPANTEX」に向け、昔の壁紙の復刻をやってみよう、せっかくだから昔と全く同じではなく、今の時代向けにリメイクしてみよう、ということになりました。過去と現在をつなぐプロジェクトの始まりです。

「いろは文様」に「反射エンボス」――70年代の壁紙は面白い!

 真夏の空調の効かない収蔵庫で全身真っ黒になって発掘していただいた昔の壁紙の中から、現代に生まれ変わる2種類を選んでもらいました。

photo 70年代に販売された「いろは文様」「反射エンボス」(協力:サンゲツ)

 1つは、かな文字がデザインされた「いろは文様」。みなさんもおそば屋さんや和食屋さんで見たことがあるかもしれません。ロングセラーだったこの壁紙、現在では廃番になっています。

 もう1つは「反射エンボス」。メタリックな表面で見る角度によって表情が変わる高級感のある不思議な壁紙です。

デジタルデータに質感を残して

 壁紙の現物を手に、次に私が駆け込んだのは大阪の製版会社・日光プロセスさん。この会社には陰影をも取り込むことのできる特殊な3Dスキャンがあります。

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photo 特殊な3Dスキャンで質感を残してスキャン(協力:日光プロセス)

 1メートルほどの貴重な現物の壁紙をデジタルデータとしてスキャンしていただきました。特殊な撮影のような感じですね。不自然な影や折り目を取り除きながらも、和紙のような独特のしわは残していきます。

 データ化したものをそのまま印刷したらただのコピー。悪く言えばニセモノになってしまいます。日本のデザインを世界に発信していくことを考えても、時代や各国の好みに合わせてアレンジすることは大切です。

 今回はドイツ出身のザーラ・ポナデアさんにリメイクとカラーバリエーションの作成を依頼しました。ザーラさんは日本在住の壁紙やカーテンのデザインソフトの専門家。各種ソフトウェアのサポートやプリンタの導入設置支援を行っています。

photo データをクリーニングしながら、カラーバリエーションを作成(協力:セルカム、デザインソフトAVA)

 スキャンして作成した1枚の壁紙データを色別に分ける「分版」と呼ばれる作業を最新のソフトを使って行い、サイズと配色パターンを緻密に作り上げていきます。

 従来の印刷技術ですと、色別に版(はん)、ハンコを作る必要がありますが、デジタル印刷に色数の制限はありません。自由な発想で組み合わせていきます。

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