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“魔法みたいな大学“の学部長はIoTとTRONの父だった坂村健氏に聞くIoTの過去・現在・未来(2/2 ページ)

» 2018年03月13日 16時00分 公開
[今西絢美ITmedia]
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大学や民間企業と育てるオープンOSとしてのTRON

 TRONは80年代から“オープンOS”という形を一貫して取り続けている。「国家プロジェクトではなく、UNIXやLinuxといったOSと同じ立場です。デファクトスタンダード、つまり“結果として事実上標準化した基準“となるように、興味を持った大学や民間企業と育てていったので、自然とエコシステムが出来上がりました。技術書を公開して、無料で使えるというのは、Linuxよりも早くに始めたくらいです」と坂村氏は説明する。

 TRONプロジェクトは開始当初からオープンOSとして提供されている。従来の垂直統合型開発モデルから、水平連携型開発モデルへの移行を推進することになるからという考えが根底にある。

 TRONのライセンスは、坂村氏曰く「かなり緩く」作られているらしく、変更点を公開する必要がない。オープンソースの一部ライセンスには、自由に使っていいものの、変更点を公開しなければならないものがあり、そのあたりがメーカーにとってはネックになることが多かった。そういう意味でも、TRONはメーカーにとって好都合で、だからこそ世界的な普及が進んでいるといえるだろう。

IEEEのリアルタイムOS世界標準規格「P2050」へ

 IoTという言葉が生まれる以前から、「どこでもコンピュータ=ユビキタスコンピューティング環境」として誕生したTRON。そんなTRONは、今年ついに米電気電子学会(IEEE・アイトリプルイー)で世界標準規格となる。これこそが、TRONが世界的にも認められたOSであることを実証できる要素となると坂村氏は胸を張る。

 対象となるのはTRON系OSのうち、ワンチップマイコン向けの「μT-Kernel 2.0」。IEEEではこれまで、IoTのエッジノード(クラウドに接続する端末機器)向けの小規模組み込みシステム用リアルタイムOSの標準化を進めており、プログラムが小さく移植がしやすいうえ、組み込み分野で60%という高いシェアを持つことを理由に、TRONが選ばれたという。

 IEEEが世界標準規格としているのは、無線LANプロトコルとして広く普及する「IEEE 802.11」や、「POSIX」と呼ばれるUNIX系OSの互換性維持のための標準仕様「IEEE 1003」など、ビッグネームばかり。坂村氏にとっても、「いままでやってきたことのなかで一番大きな出来事」だという。

 TRONはIEEE標準委員会により「P2050」の名称で標準化作業が進められており、一連のプロセスを経た上で正式に世界標準規格となる見通しだ。世界標準規格となることで、今後はTRON、IEEE P2050の全世界への普及が加速しそうだ。

 次回は坂村健氏が考える「IoT最大の課題」について。

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