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» 2018年04月11日 16時59分 公開

新連載:otsuneの「燃える前に水をかぶれ」:火が点かないようにしても意味がない

炎上対策会社「MiTERU」を立ち上げたネットウォッチャー、おおつねまさふみ氏によるリスクマネジメント連載がスタート。火がついても燃え広がらないようにするためにやるべきことは?

[おおつねまさふみ,ITmedia]

ネットウォッチャーotsuneとして長年活躍し、2018年4月1日に炎上対策会社MiTERUを立ち上げたおおつねまさふみ氏による、「ネット炎上しない、炎上しても延焼は防ぐ」ための連載コラムがスタート。

 アメリカのことわざに「ハンマーしか持っていなければ、すべてが釘のように見える」というものがある。ひとつの手段に囚われるとその手段が目的化してしまうことへの戒めとして語られることが多い言葉だ。

if all you have is a hammer, everything looks like a nail

 これは高名な心理学者のマズローらが示した概念が元になっているそうだが、私はここに「炎上」を引き起こす人間の本質のようなものがあると感じている。

 インターネットやソーシャルメディアの急速な普及によって、人びとはまるで、初めてハンマーを手に入れた子どものように振る舞うようになった。彼らは、せっかく物を叩く道具を手にしたのだからと、目の前にあるものすべてを叩きたくてしょうがないのだ。

photo いらすとや「壊している人のイラスト(棒人間)」

 キングコング西野氏が「絵本をタダで配る」というと「既存の作家の邪魔をするな!」と叩く。自身が作家でなかろうと無関係に叩く。土俵の上で倒れた市長を救護する女性看護師に「女性は土俵に上がるな」と警告した場内アナウンスも「そんなことを言ってる場合か!」と叩く。人命救助が最優先であることは間違いないが、叩く必要のない人まで叩けるチャンスだとばかりに徹底的に叩きまくるのだ。

photo 日本相撲協会理事長による謝罪文

 ネットというハンマーを獲得した人びとは、不謹慎な発言や心ない行動といった「釘=叩いても良いもの」をいつも探し求めているように見える。

 おそらく人には、誰かに説教したいという欲求があるのだ。大義名分があれば叩いたり揚げ足を取りたいと思っている。ネットに限った話ではない。酒場での放談や給湯室での内緒話を思い浮かべればいい。程度の差こそあれ、私を含めて誰もがそういう欲求を持っていることは決して否定できないはずだ。

 そういった人間の「本能」のようなものが昔も今も変わっていないのに、ネットの強大な力で環境が劇的に変わってしまった。炎上は起こるべくして起こっているのである。

絶対に炎上しない方法

「絶対に炎上しないようにする方法はないのか」と問われたら、私はいつも「それは交通事故に遭いたくないから家から出ないと言っているようなものだ」と答えている。端的にいうと、非現実的なのだ。

 交通事故が怖いからと家に閉じこもっていても、いずれ空腹に耐え切れなくなって買い出しに出掛けるだろうし、自宅にダンプカーが突っ込んでくる可能性もゼロとはいえないではないか。

 それと同じように、ネットをしていなくても炎上することはあり得る。実際に、ある人物が殺人犯の父親として特定され、名前や住所、勤務先までネットで晒されたが、じつはデマだったというケースがあった。この人物はネットをやっていなかった。まさに「自宅にダンプカー」さながら、当人がまったく関知しないことで炎上に巻き込まれてしまうという不幸な事件が現実に起こっているのだ。

 そうした環境下では、多くの企業がソーシャルメディアの公式アカウント運用に慎重にならざるを得ない。とりわけ、炎上リスクを避けたい法務担当であれば尚更だ。不用意に炎上しないよう事前に投稿内容をチェックし、取締役会の承認を得てから投稿すべしといった意味のルールを設けたり、あるいはネットでの活動を一切禁止したりする場合だってあるだろう。

 もちろん彼らに悪意はない。立場上、正しいともいえる。だがそれは、交通事故の例と同様に「通勤中の事故が怖いから社員全員を会社に住まわせよう」といっているのに等しい。新しい概念であるネットを前に非現実的なことをいっていることに気がついていないのだ。

 そんななかにあって企業アカウントの運用を任されている担当者は、多くが高いネットリテラシーを持つ人物だ。が、そこにも落とし穴はある。大量のフォロワーが付き、つねに好意的なリアクションで迎えられることによって、まるで自分が人気者であるかのような「万能感」を得てしまうことがあるのだ。その結果、本来プロモーションが目的であったはずのツイートが雑談感覚に安易に置き換わり、不用意な発言を「つい」してしまう。ありがちな展開である。

 ある程度までならマニュアルを使って運用することは可能だ。しかし、それでもまったく炎上しない「必勝法」にはなり得ない。Twitterで、日本のディズニー公式アカウントが炎上したのは、その典型的な例である。

 ディズニー公式は、基本的に宣伝ツイートがメインで、まれに時節に合わせたツイートを意図的に行ってきた。問題になったのは2017年8月9日の「何でもない日おめでとう」というツイートだ。これは『不思議の国のアリス』に出てくる歌に因んだ言葉なのだが、よりによってアメリカが長崎に原爆を投下してから70年目という日の投稿だけに大炎上してしまったのだ。

photo 「なんでもない日おめでとう」のツイート(削除済み)

 おそらく自社のマニュアルに従って予め作成されていたものだろうし、もしも別の日であれば何の問題にもならなかったツイートだが、時と場合を誤ったがために炎上案件になってしまったわけだ。

 こうした事態さえも抑えるべく、徹底的にテンプレート化したプロモーション投稿のみを行おうとするとどうなるか。その方法は実際に試みられているが、人びとはそれを「宣伝bot」または「スパム」と呼んでいる。炎上しないことを極めようとしたらスパムになってしまうとは、何とも皮肉な話ではないか。

 ネットが生活の基盤になりつつある今、どう足掻いても炎上は避けられない。多少のヤラカシは見込んでおくしかない。火が点かないようにしようと躍起になっても意味がないのだ。それよりも、延焼しないようにすることに腐心することのほうが建設的だろう。人びとはまだまだネットに未熟な「子ども」で、一度手にした「ハンマー」を手放すことはないのだから。

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