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» 2018年04月19日 16時05分 公開

AIで誰でもベテランタクシー運転手に 事業者横断のタクシー配車アプリ「タクベル」が横浜・川崎でスタート

DeNAが、神奈川県タクシー協会と共同でタクシー配車アプリの提供を始めた。利用者の利便性向上はもちろん、業界が抱える深刻な人手不足にAIで対抗する。

[山口恵祐,ITmedia]

 「AI(人工知能)で幅広い人に可能性を広げ、労働力不足の解消と利便性の向上を実現できる」──ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)の中島宏本部長(執行役員 オートモーティブ事業)は、AIを活用するタクシー配車アプリの発表会でそう話した。

 同社は4月19日、神奈川県タクシー協会と共同でタクシー配車アプリ「タクベル」(iOS、Android)の提供を始めた。神奈川県の横浜、川崎エリアが対象となるが、今夏には神奈川県全域に広げるという。

photo ディー・エヌ・エーの中島宏本部長(執行役員 オートモーティブ事業)(左)と、神奈川県タクシー協会の伊藤宏会長(右)

 乗客は、アプリから指定の場所にタクシーを呼べる。神奈川県タクシー協会に加盟する182事業者のうち、82事業者(19日時点、導入予定も含む)を横断して配車依頼できるのが、既存の配車アプリと異なる特徴だ。画面上で周辺を走るタクシーの位置や配車依頼後の予想到着時間を確認できるほか、ドライバーと定型文のやりとり、アプリ上でのWeb決済にも対応する。

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利便性を考えると、アプリの「県下統一」がベストだった

 DeNAがタクベル事業を始めたのは、神奈川県タクシー協会からの協業の打診がきっかけだった。同協会の伊藤宏会長は、白タクやライドシェアの対抗策としてタクシーの高度化を図るには、配車アプリの導入が必要不可欠と感じていたという。

 「タクシー事業者各社に(ICTの活用を)任せる考え方もあるが、利用者の利便性を考えれば、アプリ1つで使えたほうが便利。神奈川県内の事業者は大半が中小企業なので、アプリ導入が事業の足かせになってはいけない。横断して連携すれば、スムーズにアプリ導入を推進できる」(伊藤会長)

 DeNAは、2017年9〜10月に横浜でタクベルの実証実験を実施。アプリの使い勝手を検討することで、「強力なアプリができた」と中島本部長は自信を見せる。

 現状、日本で展開しているタクシー事業者の配車アプリは「配車を依頼しないとタクシーが迎えに来るまでの所要時間が分からない」「車両が到着しても通知がない」「アプリの表示と、実際の車両の位置が異なる」「ネット決済できない車両がある」といった課題があったという。その理由は、既存の電話を使った配車システムを前提としたシステムを構築しているのが原因だと中島本部長は話す。

photo ディー・エヌ・エーの中島宏本部長(執行役員 オートモーティブ事業)

 「スマートフォンに適したシステムが必要にもかかわらず、電話を使った配車システムにアプリを付け足すというシステムによって、『電話による配車サービスを超える体験』を提供できていない。これに強い危機感を持っていた神奈川県タクシー協会と事業パートナーになることで、日本に適したアプリを作れた」(中島本部長)

 DeNAは、タクベル導入時の通信機器やシステムの初期費用を無償とし、成果課金型のビジネスモデルとした。今後、タクシー事業者が新サービスを展開する場合でも、拡張性のあるシステムを構築したという。

 今後は、公共施設にタクシー配車の専用端末を設置するなどの施策も自治体に働きかける。スマートフォンやアプリを使わない人にも、地域公共交通としてタクシーの利便性向上を目指す。

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photo 運転席に取り付けたスマートフォンで、ドライバー用アプリを操作する

ドライバー不足に強く危機感 AIで誰もがベテランドライバー並に

 神奈川県タクシー協会が自らDeNAに協業を持ちかけたのは、配車アプリの導入だけが理由だけではない。伊藤会長は、深刻な人手不足に危機感を強く感じているという。

photo 神奈川県タクシー協会の伊藤宏会長

 「圧倒的な労働力不足が最大の課題。これが続けば、タクシーの安定的なサービス供給ができず、白タクやライドシェアの呼び水になるのは明らか。AIの需要予測などで、未経験のドライバーでも効率的な営業が可能になる環境が整いつつある。タクベルがその起爆剤になれば」(伊藤会長)

 DeNAの調査によれば、タクシードライバーの生産性は人によって約2倍もの差があるという。これは、主に客を探す「探客スキル」の差で、上位のドライバーはさまざまなタクシー需要の要素(天気、電車の遅延、イベント、渋滞)を複合的に判断し、効率よく客を探す走行ルートを組み立てられるという。このレベルに到達するまでには、多くの経験と時間が必要だ。

 タクベルは、近隣のイベント情報、鉄道の遅延情報、降水情報、近くを走るタクシーの空車情報などをもとに、AIを使った営業走行ルートの提案を行う機能を、年内にもドライバー向けアプリに実装する。単なる需要予測ではなく、AIが複合的に情報を判断し、タクシー1台1台に合わせて「このルートを走れば客が見つかる」といった情報を表示できるという。

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 「数千台のタクシーに異なる情報を提供できるのが、AIによる技術革新。乗務員に要求される3つのスキル(運転スキル、接客スキル、探客スキル)のうち、探客スキルをAIがサポートすることで、より幅広い人にタクシードライバーとしての可能性を広げ、労働力不足の解消と、利便性の向上を実現できる」(中島本部長)

自動運転とタクシーの関係は?

 DeNAは、日産自動車と共同で自動運転車両を活用した交通サービス「Easy Ride」の実証実験を横浜エリアで3月に行っている。有人タクシーとのすみ分けが気になるが、中島本部長は全く異なるサービスだと説明する。

 「今後、自動運転車によるタクシーもあり得る。そういった事業は既存のタクシー事業者に担っていただきたい。今回のような取り組みを通して信頼関係も構築できるのでは」(中島本部長)

【訂正:2018年4月20日午前9時40分 当初、神奈川県全域のサービス提供時期を「年内」としていましたが、「今夏」に訂正しました。】

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