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5億枚の名刺データ×AIで何ができる? “人脈”から生まれる新たな出会いこれからのAIの話をしよう(人脈編)(2/2 ページ)

» 2018年06月20日 11時34分 公開
[村上万純ITmedia]
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「良い意味で期待を裏切られた」 Kaggle人材の可能性

 今でこそKaggle人材の採用に力を入れる同社だが、常樂取締役は「最初はそこまで期待していなかったので、良い意味で期待を裏切られました」と笑う。Kaggleのコンテストで初めてKaggler(Kaggleの参加者)たちに会ったときにその優秀さに驚き、「これからはKaggleだ」と採用にも本腰を入れ始めた。

 15年に1人目のKagglerを採用し、翌年末からKagglerをターゲットにした採用を開始。半年ほどで10人を集めたという。「幸か不幸か、当時は日本企業でKagglerの存在はそこまで知られていなかった」と常樂取締役は振り返る。

 目を付けるのが早かったにしても、今はAI人材の獲得が激化しており、価格競争になることも珍しくない。報酬面や開発・勉強がしやすい環境面は整えたが、その上で彼らを引きつけたのは「量・質ともに特異性のある膨大な名刺データ」だったという。

 「これだけ膨大でリッチな名刺データを収集しているのは世界的に見てもあまりない。データの面白さを武器に口説いた」(常樂取締役)

 同社がそこまでして手に入れたいKagglerの魅力は何か。「まず、データの見方が他のエンジニアと異なる。それによって課題解決のアプローチも違うものになり、アウトプットの質も高いものになる。名刺データの自動化1つ取っても、これまでなら諦めていたことを実現してしまう」(常樂取締役)

 一方で、Kagglerと呼ばれる彼らは機械学習を使って与えられた課題を解決する力にたけているが、新しい課題を見つけ出すことは苦手なことも多い。

 今は社会科学・行動経済学のスペシャリストが新しい課題を見つけ、Kagglerがそれを解く、という好循環が生まれ始めているという。

人脈から見えるもの 転職や人事異動にも

 DSOCで研究開発を進める同社は、名刺データを今後どう活用していくのか。

 既に同社は、AIを活用した実験的な機能やサービスを一部で提供している。例えば(1)次に出会うべき人のレコメンド、(2)顧客との関係拡大に寄与した社内のキーパーソン抽出、(3)自社と親密/疎遠になっている顧客抽出、(4)社員の強みのキーワード化、などだ。

 レコメンド機能は人脈を広げる意味だけでなく、生産性向上にも役立たせる狙いがある。常樂取締役は「営業を効率化したい。例えば、特定の案件で失注した場合、隣の部署の人と話していたら受注できたかもしれないケースがある。会うべきキーマンが誰か分かるようにしたい」とし、「営業の勘といわれていた世界を数値化したい」と意気込む。

sansan 法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」の特徴(公式サイトより)

 人だけでなく、転職に役立つような会社のレコメンドも考えているという。「AとBという企業があったら、A→Bという転職は多いがB→Aのパターンは少ないなど、人の流れも分かる。どの企業・業界に行くと出世しやすいかといったことも見えてくるはず。社内人事に応用すれば、チーム・組織の最適化もできる」(常樂取締役)

 また社員の人脈を独自の基準でスコアリングすることで、社内で影響力を持つキーパーソンを可視化したり、社員の強みを「ゲーム開発」「セキュリティ」「金融」といったさまざまな粒度のキーワードで可視化したりする試みも行っている。

 常樂取締役は「人脈を見れば、その人がどのような人物かが見えてくる」と話す。これまで言語化されていなかった部分を“見える化”することで、これまで気付かなかった人や企業との出会いを生み出していく考えだ。

 「これほどの人脈データを持っているところは世界的にもあまりないので、海外の研究者も非常に興味を持っている。今も外部組織とのコラボレーションを進めているが、さらに枠を広げてイノベーションを起こしていきたい」(常樂取締役)

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