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AI時代に生き残る人たち 私たちは“AI人材”を目指すべきなのか(1/3 ページ)

» 2018年06月21日 06時00分 公開
[松本健太郎ITmedia]

 最近、「AI人材」という言葉をメディアで聞くようになりました。人工知能に関する業務を遂行する人材をAI人材と呼ぶそうで、どの企業も血眼になって探しています(参考記事)。

 AI人材の仕事は、コードを書くだけにとどまりません。6月7日に行われた日本商工会議所の記者会見で、三村明夫会頭は「かみ砕いて(AIが)経営に必要だと分からせる、しかも具体的にこういう手段がありますよと、社長に気付きを与える人材が必要」と述べています。

 要はエンジニアの枠を超えて、AIで何ができるかを分かって、かつAIを用いた課題発見・課題解決の実現まで構想できる人材がAI人材なのでしょう。

AI

 一方で、世間的にはAIによる成功事例だと呼ばれているものが、単なる回帰分析を用いた予測だった、というのはよくある話です。結局のところ、簡単なデータサイエンスの知識があれば十分なのにわざわざAI人材と名付けたい層と、名付けられたい層の狂想曲がちょうど今、奏でられているのかもしれません。

 しかし、こうしている間にも世界では「本物」のAI人材による開発競争と具体的成果物の提示が止むことはありません。今回は、世界レベルで見たAI人材に求められるレベル感を通じて、私たちはどうするべきかを考えたいと思います。

AI人材はどれくらい居るのか?

 そもそも、世界には今どれくらいのAI人材が居るのでしょうか。

 少し古いデータになりますが、2017年12月に中国のテンセント・リサーチ・インスティテュートが発表した「グローバル人工知能人材白書」に、詳細な結果が記されています。

 白書によれば「世界的に見てAI開発をリードするほどの人材」は1000人足らず、AI人材はたった30万人ほどだとしています。15年の国勢調査による法定人口で見れば、東京都豊島区が約30万人で構成された街です。世界を見渡して、豊島区の住民の数ぐらいしかAI人材はいない、というのが研究所の見解です。

 内訳として、大学にいる研究者が約10万人、産業でビジネスに携わる人が約20万人いるとしています。ちなみに世界規模で見ると、ビジネスの現場に必要なAI人材はざっと100万人だと推定しており、研究者を数えなければ約80万人不足している計算になります。そりゃ、壮絶な奪い合いになるはずです。

 ちなみに、人工知能の研究指導においては世界中に367の大学があって、毎年約2万人の学生が卒業しているとしています。

 つまり、単純計算すれば1つの大学に約270人のAI人材がいて、毎年約55人の卒業生を輩出している計算になります。学生は修士、博士で卒業だと考えると、指導する側もまだ不足しているかもしれません。

 日本に目を向けてみましょう。全国推定だと、AI人材の修士課程修了者は約2800人、博士課程修了者は約460人です(人工知能技術戦略会議人材育成TF資料より)。

人材 求められる人材の知識・技能(人工知能技術戦略会議人材育成TF資料より

 そのうち、「RU11」と呼ばれる北海道大学、東北大学、東京大学、早稲田大学、慶應義塾大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学、筑波大学、東京工業大学の垣根を越えたコンソーシアムに限って言えば、人工知能分野の修士課程修了者は約860人、博士課程修了者は約155人、年間約1000人程度を輩出しています。

 この約3000人という数字が「2万人の卒業生」に含まれているかどうかは分かりませんが、白書を読む限りは米国や中国には数で負けている現状に変わりなさそうです。

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