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ソニー、ペルチェ素子を使った“着られるエアコン”を開発 カメラの熱制御技術を活用

» 2019年07月22日 11時53分 公開
[谷井将人ITmedia]

 ソニーは7月22日、首を暖めたり冷やしたりできるウェアラブルデバイス「REON POCKET」(レオンポケット)を開発し、製品化の支援者を募るクラウドファンディングを始めると発表した。目標金額は6600万円で、目標額に達したら支援者に製品を発送する。

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 背中側の首もとにポケットがついた専用インナーウェアにデバイスを装着して使う。首に触れる位置にあるパネルを加熱、冷却することで装着者に暖かさや冷たさを感じさせる。電流を流すと片面が発熱し、もう片面が冷える「ペルチェ素子」を使う仕組み。

 本体のサイズは54(幅)×20(奥行き)×116(高さ)ミリ、重さは85グラム。リチウムイオン充電池を内蔵し、2時間の充電で連続約90分間動く。ただし、低温やけどや体の冷やしすぎ防止のため、30分間使うと自動で停止するようになっている。

 設定温度はスマートフォンの専用アプリ(iOS、Android)から冷却機能、加熱機能それぞれの温度を5段階で調節できる。

 本体に内蔵したセンサーで、歩いている、止まっているといった装着者の動きや、ユーザーの肌表面温度を検知し、自動的に適切な温度に設定する「オートモード」もある。

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 本体を入れるポケットがついた専用インナーウェアは東レインターナショナル製を採用した。素材は吸水速乾性の極細繊維ポリエステルで、サイズはS、M、L。カラーバリエーションはホワイトとベージュを用意する。

 クラウドファンディングの期間は7月22日から8月19日まで。支援プランは、レオンポケット1台と専用インナー1枚をリターンするプランが1万4080円、インナーが3枚付属するプランが1万7380円、5枚付属するプランが1万9030円(全て税込)。いずれも早期に支援した人向けに数量限定で提供する。

デバイスの使用感

 スマートフォンの専用アプリを操作すると、5秒程度でデバイスが反応し、加熱や冷却が始まる。事前に試したモニターからは、冷却機能について「タオルにくるんだ保冷剤や冷たさが持続する湿布のようだ」といった感想が寄せられているという。記者も発表会で実際に加熱を体験したが、首にカイロを当てているような印象だった。

 実際にデバイスを装着してみると、常に加熱冷却をするのではなく、数秒ごとに加熱や冷却のオンオフを断続的に行なっていることが分かる。

 デバイスの制御や専用アプリといったソフトウェアの開発を担当するソニーの伊藤陽一さんによると、快適さを持続的に得られる熱の与え方を研究し、1年かけてアルゴリズムを開発したという。常に熱を与えると、体が慣れて快適さが下がるが、断続的に与えるようにすればそれを防げる。

 レオンポケットはスーツ姿で働くビジネスパーソンをメインターゲットとし、ワイシャツやジャケットの上から見えにくいデザインを採用した。

photophoto 装着イメージ

ハードウェア設計にはカメラの熱制御技術

photo 伊藤健二さん

 レオンポケットのハードウェア設計を担当する伊藤健二さんは、業務用ビデオカメラの製品設計をしていた。ビデオカメラは熱を持ちやすく、放置していると性能に影響が出るため、熱を制御する技術も重要となる。

 伊藤さんは、電気を流すだけで音を立てずに急速な加熱や冷却が行えるペルチェ素子を扱っていくなかで、「この素子をモバイルデバイスに使えないか」と考えていたが、当時はまだ素子自体が高価だったため、なかなか形にできていなかった。

 2017年に中国へ出張したときに、気温が40度近くになる屋外と、冷房で20度まで冷えた屋内を行き来するつらい思いをしたと同時に、地球環境は大丈夫なのかと感じたことがレオンポケットの製品化を考えたきっかけの一つだという。

 ペルチェ素子が自動車の座席を冷やすクーラーや、ワインクーラーの温度制御に使われるようになった他、IoT機器が普及し始めた影響もあり、価格が下がってきたという背景から製品化のめどが立つようになった。

 伊藤さんはレオンポケットの設計について「カメラの性能といえば、画質の話になるが、熱の制御でもかなりの力を持っている。普段は目立たないがこれが示せるのはうれしい」とコメントした。

 これまでは社内の限られた人数で実験していたため、今後はクラウドファンディングを通して得られたユーザーの意見も参考にしながら、どんな体形の人が付けても目立たないようなデザインや機能などをブラッシュアップしていく予定だ。

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